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コロナ後の世界 日本は「資本主義4.0」で圧倒的に有利だ (3/3ページ)

 これに対して、日本の宗教は多神教で非常に平等な社会だ。西田幾多郎の哲学に代表されるように、主客一体で実践的な性格を持つ。例えば、天皇陛下自らが田植えや植樹をなさるように、労働は「神事」とされる。また、「天岩戸」の神話で八百万の神が対応を協議したように、協力と熟議の伝統がある。すなわち、日本の労働市場はエリート主義的な職種制ではなく、現場主義でゼネラリスト的な傾向がある。この仕組みは、各人が創造性を発揮することが期待される、ポストコロナの時代の資本主義(「資本主義4.0」)と親和的だといえる。

 日本に求められる「立ち位置」「価値観」「哲学」の明確化

 今後、世界的な資本主義の構造転換や、反グローバリズム・ナショナリズム台頭のリスク、米中対立の激化などが予想されるなかで、日本は「自国の立ち位置」を明確化する必要がある。

 日本は長年にわたり、国際法を遵守する姿勢を貫いてきた。近代的な国際秩序の基本構造は、1648年に締結されたウェストファリア条約によって成立した。ウェストファリア体制の根幹をなすのは、「すべての主権国家は対等、平等である」という理念だ。これに基づいて、国際社会では、主権国家に対する内政不干渉の原則などが尊重されている。

 現代でも、国連憲章第1章に「すべての加盟国は武力による威嚇又は武力行使を慎まなければならない」と謳われている。こうした基本的な価値観や哲学は何としても遵守しなければいけない。

 それらを踏まえて、「ポストコロナ時代の日本の立ち位置」を以下のように提言したい。

(1)民主主義、基本的人権の尊重、法やルールの遵守、自由貿易の推進といった、わが国のベースにある価値観や哲学を守り抜く

(2)反グローバリズム、自国中心主義、ナショナリズム、ポピュリズムの台頭には断固として反対する

(3)感染症対策などの分野では、グローバルな結束や国際的な連帯のリード役となる。例えば、WHO(世界保健機関)の改革で主導的な役割を果たす

(4)米中両国の対立激化やブロック経済化などの回避に向けて、米中両国の仲介役を果たす。中国に対しては、産業補助金、強制的な技術移転、データ利活用のルール、サイバーテロ、不公正な貿易慣行、知的財産権の保護などの面での是正を強く求める。米国に対しても、保護貿易主義の是正などを求める

 日本はいわゆる軍隊を持たず、資源も乏しい。こうした国が、国際社会で影響力を保つには、やはり「論理」に頼るしかない。「日本という国は、いつもバランスの取れた正しいことを言っている」という小さな称賛の積み重ねから生じる「ソフトパワー」こそが、日本の国力の源泉になるのである。

 ポストコロナの時代に、わが国は米国の顔色ばかり窺うかがうのではなく、自国の立ち位置や、寄って立つ価値観や哲学を明確化することこそ重要だと筆者は考えている。(大和総研 専務取締役 調査本部長 チーフエコノミスト 熊谷 亮丸)

 熊谷 亮丸(くまがい・みつまる)

 大和総研 専務取締役 調査本部長 チーフエコノミスト

 1989年東京大学法学部卒業後、日本興業銀行(現みずほ銀行)入行。同行調査部などを経て、2007年大和総研入社。2020年より現職。東京大学大学院法学政治学研究科修士課程修了(旧興銀より国内留学)。ハーバード大学経営大学院AMP(上級マネジメントプログラム)修了。政府税制調査会特別委員などの公職を歴任。経済同友会幹事、経済情勢調査会委員長。テレビ東京系列「WBS(ワールドビジネスサテライト)」コメンテーターとしても活躍中。

(PRESIDENT Online)

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