専欄

アント・グループの上場延期、新指針草案で衝撃走る中国ネット業界

 中国のネット業界に衝撃が走った。同業界の先頭を走ってきたアリババグループは、11月11日の「独身の日」には売り上げが過去最高を記録したが、関係者に笑顔はなかった。当局の指示によって、傘下のアント・グループの上場延期を強いられたうえに、「独身の日」の前日には、当局がネット企業の独占的な行為を規制する新指針の草案を発表したからである。(拓殖大学名誉教授・藤村幸義)

 新指針の草案では、プラットフォーム企業が取引先の企業に「二者択一」を求める行為は、市場支配権の乱用であるとしている。市場シェアを高めるために、取引先に不当な値下げを強要する行為も法律に抵触する恐れがあると明記している。

 同草案の最大のターゲットが、ネット通販市場で圧倒的なシェアを握るアリババなのは明らかだが、その他の多くの企業も当局から呼び出され、説明・警告を受けている。

 中国のメディアは、ネット企業が巨大化し、競争を阻害するようになれば、当局が動き出すのは当然であるとの専門家の見方を伝えている。米国では、グーグルが検索サービスで競争を阻害しているとして、司法省から提訴されたが、それと同じというわけである。

 だが中国の場合には、それだけで説明しきれない部分がある。中国には国有企業と私営企業が併存しており、当局は私営企業には往々にして、厳しい姿勢をみせることが多いからだ。

 中国では国際競争力を確保するという理由から、巨大国有企業同士の併合を進めており、その結果、市場シェアがほとんど100%になってしまった業種もある。2008年に独占禁止法が施行されているが、市場競争力を阻害したとして国有企業が摘発された話は聞いたことがない。

 アリババは資金提供など社会貢献にも努めていたが、それが不十分とみられたのだろうか。あるいは、アリババの創業者が政府の金融規制に批判的な発言を繰り返していたことが、当局の怒りを買ったのだろうか。

 確かなことは、アントが運営するスマートフォン決済「支付宝(アリペイ)」が大きくなりすぎて、当局の規制の枠からはみ出し始めたことだ。これが体制の危機につながりかねないと判断したのだろうか。

 もっとも私営企業にあまりに負荷をかけすぎれば、本来の持ち味を失わせてしまう。ネット通販が下火となれば、政府が成長確保の切り札としている「消費」にも悪影響を与えよう。

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