専欄

中国の異例の日本批判、直接的なきっかけは

 元滋賀県立大学教授・荒井利明

 日中外相の電話会談が4月上旬に行われ、王毅は「日本が独立自主の国家として、中国の発展を客観的、理性的に見ることを望む」「隣国として、中国の内政に対して、手を伸ばし過ぎないことを要求する」などと、日本批判を展開し、日本の対中外交に注文を付けた。

 また、中国は4月中旬の日米首脳会談とその共同声明に対しても、「強い不満と断固たる反対」を表明した。

 中国はこれまで、習近平の国賓としての訪日が懸案となっていた期間、日本が中国との密接な経済・貿易関係を考慮して慎重な対中姿勢をとっているとみて、日本批判を避けていた。

 今回の対日批判は、習近平の国賓訪日の実現が難しくなったことを背景にしつつも、直接的なきっかけは、3月中旬の日米「2プラス2」ハイレベル会談後の共同声明で、日本が米国に同調して中国を名指し批判したことにあった。

 中国としては、日本が米国と完全に足並みをそろえることなく、より慎重な外交を展開するものと期待していたが、日本が完全に米国と足並みをそろえたと判断し、日本批判に踏み切ったものとみられる。

 率直な物言いで知られる、中国の日刊紙「環球時報」(3月17日付)の社説は、「米国に追随して、中国と戦略的に対決する者は、愚か者だけだ」とまで述べている。

 「中国の内政に手を伸ばし過ぎるな」との王毅発言は、特に台湾問題を念頭に置いたもので、「一つの中国」政策を堅持するよう日本に求めたものといえよう。

 トランプ時代、米国は台湾との関係の緊密化を図ったが、日本も米国に同調するかのように、台湾との関係を深めており、中国はこれに神経をとがらせているのである。

 安倍時代の後半以降、改善基調にあった日中関係は菅政権下で急速に悪化している。「環球時報」(4月17日付)の別の社説は、「他の問題では外交手腕を発揮してもよいが」とした上で、「台湾問題からは距離を置くよう忠告申し上げる」と日本に対してわざわざ警告している。ここからも、鍵はやはり台湾問題にあることがうかがわれる。

 日本が1972年の国交正常化以降履行してきた「一つの中国」政策を引き続き誠実に履行し、中国も自制するならば、日中関係の悪化に歯止めがかかり、台湾海峡の緊張も沈静化に向かうだろう。(敬称略)

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