専欄

歴史はまだ終わっていない 「中国モデル」に自信を深めた要因は

 元滋賀県立大学教授・荒井利明

 冷戦終結から間もない約30年前、米国の政治学者、フランシス・フクヤマは「歴史の終わり」を発表した。

 フクヤマは、リベラルデモクラシーがその正当性を証明していく過程を歴史ととらえ、他のイデオロギーに勝利し、その正当性を証明したとき、歴史は終わると主張したのである。つまり、冷戦の終結によって、リベラルデモクラシーの共産主義・社会主義に対する勝利が明確になり、歴史は終わったと宣言したのである。

 だが、現実には、中国が自賛する「中国モデル」と米国に代表されるリベラルデモクラシーの「西側モデル」が共存し、競合しており、今世紀20年代の現状は、フクヤマの主張とは異なり、歴史がまだ終わってはいないことを示している。

 中国が自己の「中国モデル」に自信を深めた要因は、国内総生産(GDP、為替レート換算)が世界第2位にまで拡大し、数年後には米国をも追い抜いて世界最大になろうかというその発展ぶりにある。

 また新型コロナ対策における成功もその自信を強めている。コロナは各国の指導者や統治システムの危機対応能力を問う試練だったが、中国は初期の対応に誤りがあったものの、大規模で徹底したPCR検査に基づく感染者の早期の隔離・治療やハイテクを活用した管理・監視システムなどによって、いち早く成果を挙げ、世界の主要国では唯一、2020年通年でプラス成長を実現した。

 習近平は昨年9月の演説で、感染制御における「戦略的な成果」によって、中国共産党の指導と中国の社会主義制度の顕著な優位性が明確に示されたと強調した。習近平は中国の制度、つまり「中国モデル」にいっそう自信を深めているといえよう。

 中国共産党機関紙「人民日報」(19年10月1日付)の建国70年記念社説は、「中国の特色ある社会主義の大きな成功は、どの国も最終的には西側のモデルに帰着するという単線型歴史観の破綻を宣言した」と主張した。

 「中国モデル」は中国の特色ある社会主義で、それは「社会主義市場経済プラス一党支配型政治」である。リベラルデモクラシーではなく、「西側モデル」とは異なる。

 バイデン政権は中国との競争に全力を挙げるとしており、それは「中国モデル」よりも「西側モデル」が優位にあることを示そうとするものだといえよう。(敬称略)

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