野村総合研究所(上海)・劉芳
2020年の中国消費市場は新型コロナウイルス感染拡大の影響を受け、社会消費品小売総額が前年比3.9%減と落ち込みを見せた。しかし、全カテゴリーでマイナスというわけではない。食料品・飲料、化粧品、日用品のカテゴリーは18年以降、小売市場全体が1桁成長にとどまる中でも2桁成長を維持しており、20年も約10%の成長を記録した。
これらのカテゴリーは、生活必需品に近いということもあるが、他の領域に先んじて「消費グレードアップ」、すなわち、中国の消費者が「基本的な物質的要求を満たす段階を過ぎ、消費の品質や体験までをも求める段階に入る」傾向が進んでいることが成長要因といわれている。近年の輸入品や海外ブランドの売上高拡大も、これを受けたものといえる。
自分本位で理性的
現在、中国では主力消費者層が若年化しているが、中国の若い世代の消費価値観は上の世代のそれと大きく異なる。若い世代は、自分が好きなものにはお金を惜しまないが他のものにはお金をかけない「自分本位のメリハリがある消費」、商品自体の価値や品質をしっかりと見極める「理性的な価値判断」の傾向が強くなっている。
そして、彼らの消費行動はより多様化、成熟化しており、決まった商品・ブランドに固執することなく、これまでにない独創性や目新しさを重視する傾向もある。中国の一部新興企業では、このような変化を適時にとらえ、新たな商品開発やマーケティング活動を展開している。
例えば、ユニークなインスタントコーヒーブランドとして注目されている「三頓半(Saturnbird)」がその典型例として挙げられる。「三頓半」は、15年に中国インスタントコーヒー市場の「消費グレードアップ」に着目。高品質なドリップバッグコーヒーを発売し、一部のコーヒー愛好者の人気を得た。
当初は、類似の輸入品と明確な差別化ができなかったことなどから、大ヒットまでには至らなかった。しかしその後、より幅広い消費者をターゲットに、高品質で、家庭、オフィス、屋外などさまざまな利用シーンでの利便性が高く、そしてユニークな商品を目標に掲げて開発に取り組み、17年に発売した、20~30代をターゲットとした「冷たい水やミルクでも3秒で溶ける」インスタントコーヒーパウダーが大ヒットした。1パック(杯)約80~120円と輸入品より高い価格設定だが、高い機能性・利便性に加え、コーヒー専門店にも劣らない味や、テークアウトコーヒーカップ形状の斬新なパッケージも評価された。
そしてマーケティングでは、若い消費者層に対し、会員制交流サイト(SNS)経由で短期間で知名度向上、話題拡散を図ったことが、大ヒットに大きく貢献している。例えば、「小紅書」などのSNS系ECやグルメアプリ経由で情報発信を行う、自社KOC(キー・オピニオン・コンシューマー)の育成、パッケージ再利用アイデア募集イベントの企画、インフルエンサーによるプロモーションなどで、ブランドと商品認知度の向上に成功した。
SNS注力で成功
「三頓半」インスタントコーヒーパウダーは、アリババグループのECサイト「天猫(Tモール)」の販促イベント「双11」で19年以降、コーヒーカテゴリーの売り上げナンバーワンを獲得し、20年のイベント期間中の売上高は1億元(約17億700万円)を超えた。
このように、中国の「消費グレードアップ」の潮流や主力消費者層の変化をとらえ、たとえ高価格であっても品質と斬新さを訴求して商品開発を行い、SNS系デジタルマーケティングに注力することで成功を収め、海外輸入品や海外ブランドのシェアを奪い取るような中国新興ブランドも出現し始めている。
中国の食料品・飲料、化粧品、日用品市場において、日本ブランドや日本からの輸入品は依然としてその品質やコストパフォーマンスで評価されており、まだ売上高拡大の余地は大きい。その一方、中国新興ブランドが成長しつつある中、中長期的視点で考えると、日本企業は若い中国主力消費者層ニーズのモニタリングや現地での企画・開発をより一層強化することはもちろん、SNS系デジタルマーケティングへの投資拡大を検討するなど、次のステージに向けて対応を再検討すべき時期に来ているのではないだろうか。
【プロフィル】劉芳
りゅう・ほう 中国・成都理工大学卒。2011年野村総合研究所(上海)入社。産業三部主任コンサルタント。専門領域は、小売り・流通、消費財、ヘルスケア領域など。