働き方

通勤している暇はない 一過性のテレワークなら「日本沈没」 (1/2ページ)

 【ニュースを疑え】

 新型コロナウイルス感染対策として多くの企業が在宅勤務などのテレワークを導入した。一過性なのか、「新しい日常」として定着するのか。神戸大の大内伸哉教授は人工知能(AI)の進歩などによる産業構造の転換にテレワークを位置付け、「一過性で終われば日本は沈没する」と警鐘を鳴らす。会社に通勤するという当たり前のスタイルは、歴史の曲がり角を迎えつつあるという。(聞き手 坂本英彰)

 --接触を避ける緊急避難的に広がったテレワーク。今後はどうなりますか

 「一過性では終わらないとは思います。単に会社でしていた仕事を在宅でするというだけではなく、場所や時間にこだわらない自立したテレワーク的な働き方が、いま起こっている産業構造の大転換と密接に結びついているからです。だからもし一過性で終息するようなことになれば、日本はおしまい。古い生産体制や技術体制にこだわりがなくしかも勢いのあるアジアの国々に、取り残されていくことになるでしょう」

 「そもそもテレワークは、1970年代にアメリカで情報通信機器の発達に伴って出てきました。日本では1990年代から徐々に入ってきましたが極めて少数のままでした。多くの企業は業務体制を見直してまで推進しようとしてこなかった。適した仕事がなかったこともあるのかもしれませんが、必要性を感じていなかったことが主たる理由でしょう。いまはコロナ対策で取り組んでいますが、歴史的なスパンで現象を見ると別の側面が浮かんできます」

 --どういうことですか

 「それが産業構造の転換なのです。AIやロボットの急速な進歩で今後、仕事の大部分で機械化、自動化が進むことは確実です。データを活用できるような定型的な業務は、AIの方が人間より迅速かつ正確な処理ができる。銀行業務でも弁護士の仕事でも、実はかなりの部分がこうした定型的な業務であり、なかにはチャットボット(自動会話プログラム)でも代替できるものもあるのです」

 ものづくりも核は情報

 「そうすると人間に残されるのは知的創造分野、情報を作り出す頭脳労働です。こういう仕事は会社に集まってする必要がない。テレワークが増えないということは、新しい時代に対応した仕事をする人が少ないということであり、そんな状況になると日本は暗いということなのです」

 --日立製作所は在宅勤務を標準化する方針を発表した。工場を持つ製造業企業が、テレワークに積極的なのは興味深い

 「それも産業構造の変化です。日本を代表する製造業であるトヨタももう、ものづくりで稼いでいくとは言わない。自動運転で重要なのは車体本体よりもむしろ情報であり、街全体をITでつなぐスマートシティーという、次世代都市構想にも乗り出した」

 「工場はあってもロボット化が進むと、人間の関与は少なくなっていく。ものを作る企業としては製造業だが、核となるスキルは情報やデジタル関係です。そういう仕事が中心ならテレワークでいいし、成果を出しさえすればよいので、働く時間や場所も自由に選ばせてもらったほうがいい」

 --伝統的な働き方とはずいぶん違う。意識の変革が必要ですね

 「たしかにこれまでの働き方とはずいぶん違う。しかし、忠誠心の高い若者を抱え込んで自前の優秀な労働力を作り上げるという日本的な雇用文化も、歴史的にはそれほど長いわけではない。始まったのは第一次世界大戦後ぐらいで、花開いたのは1960年代ごろからです」

 「ただそれが戦後の高度成長期にピタッとはまり、世界ナンバー2の経済大国になった。大成功したわけです。日本企業の人材育成能力はすさまじく高く、歴史的には高く評価されるべきです。ただそれは過去形となりました。企業が教え込んだ知恵はかつては相当年数通用したのですが、いまはAIの導入で変化が速くそういう前提がなくなってきている」

 自由な人間でいるために

 --具体的にはどんなことがありますか

 「銀行の融資でも支店長が長年培った経験をもとに何日もかけて行ってきたことが、数分でできてしまう時代です。新聞記事もAIが書き始めている。教え込むスキルがすぐ使えなくなる、育成の意味がなくなっていくんです」

 --企業が担ってきた人材育成は個人の責任になるのですか。それは個人にとっても厳しい時代ですね

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