ローカリゼーションマップ

「三日三月三年」という言葉に思う イタリア滞在“30年”で見えてきたこと (3/3ページ)

安西洋之
安西洋之

 30年前、ボスはこの感覚を語っていたのではないかと考えるようになった。ボスが30年間にやったことと、ぼくが30年間でやったこと、これらの2つを比較するのがおぞましいくらいにボスの偉業は、ぼくの目に眩しい。

 だから比べることはあるまいと思っていた。だが、30年という単位でぼく自身が見てきたイタリアを思い返す意味はあると気づいた。

 人は小さな些細な経験の集積に基づいてものを考える。しかし、この集積とは単に縦に積み上げていくものではない。それぞれの経験が立体的な複雑な網になっている。ある方向からは見えるが、別の方向から覗いても見えないーつまり経験を忘れているか、無縁のものとして視界に入ってこない。

 ただ、それらの数々の経験はある局面において、あるいはある一定の時間を経て、一つの統合したものとして瞬間的に目の前に立ち現れてくることがある。「ぼくは、このためにさまざまな経験を積んできたのではないか?」と自問自答するほどである。

 この自問自答するほどの瞬間に時間的な法則性はない。経験が成熟というか、発酵というか、そうした表現が似合うタイミングである。

 それでも、「三日、三カ月、三年、三十年」という数字の妙によって導かれているような気にさせられる。そう、思わせられる30年目だった。noteに「イタリアの地方の風景と自分の経験を照らし合わせてみる。」というタイトルの文章を書いて、ますます、その思いは強くなった。

安西洋之(あんざい・ひろゆき)
安西洋之(あんざい・ひろゆき) モバイルクルーズ株式会社代表取締役
De-Tales ltdデイレクター
ミラノと東京を拠点にビジネスプランナーとして活動。異文化理解とデザインを連携させたローカリゼーションマップ主宰。特に、2017年より「意味のイノベーション」のエヴァンゲリスト的活動を行い、ローカリゼーションと「意味のイノベーション」の結合を図っている。書籍に『「メイド・イン・イタリー」はなぜ強いのか?:世界を魅了する<意味>の戦略的デザイン』『イタリアで福島は』『世界の中小・ベンチャー企業は何を考えているのか?』『ヨーロッパの目 日本の目 文化のリアリティを読み解く』。共著に『デザインの次に来るもの』『「マルちゃん」はなぜメキシコの国民食になったのか?世界で売れる商品の異文化対応力』。監修にロベルト・ベルガンティ『突破するデザイン』。
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note:https://note.mu/anzaih
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ローカリゼーションマップとは?
異文化市場を短期間で理解すると共に、コンテクストの構築にも貢献するアプローチ。

ローカリゼーションマップ】はイタリア在住歴の長い安西洋之さんが提唱するローカリゼーションマップについて考察する連載コラムです。更新は原則金曜日(第2週は更新なし)。アーカイブはこちら。安西さんはSankeiBizで別のコラム【ミラノの創作系男子たち】も連載中です。

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