カーブアウトを用いた大企業発新事業の成長戦略 京セラと東大IPCが具体事例で考える、新事業独立への道筋

    京セラ株式会社 経営推進本部 Sプロジェクト2課 責任者 谷美那子氏からの説明
    京セラ株式会社 経営推進本部 Sプロジェクト2課 責任者 谷美那子氏からの説明

    挑戦できる企業風土から生まれた新事業「matoil」(マトイル)

    次に京セラの谷氏が、自身が進めている新事業「matoil」(マトイル)について発表されました。

    谷氏は携帯電話やスマートフォンのUI/UXデザイナーで、2018年に社内で始まった「新規事業アイデア スタートアッププログラム」に応募し、選考通過後はプロジェクト専任で活動しています。

    谷氏は同プログラムについて「目標は新規事業の創出ですが、目的は社員からのボトムアップによって、みんなが自由な発想でチャレンジできる企業風土を作ること」と説明しました。

    谷氏が手がける事業のテーマは食物アレルギーで、自身に食物アレルギーがあるという実体験がベースとなっています。ターゲットは、普段外食に行きづらい複数アレルゲンのあるお子さんがいる家族です。「食物アレルギーのある家族がいる世帯は、日本全国で13.9%と言われています。外食や中食の利用が少ないため、一般家庭に比べて食費が月平均27,000円少なく、月27,000円が事業のポテンシャルと捉えています」と谷氏。

    さらに3歳から小学3年生くらいの有症者がいる家庭で、アレルゲンが卵・乳・小麦の10万世帯をコアターゲットとして、まずは誕生日を祝うオーダーメイドのキット販売を来年4月に開始予定です。ニーズの検証結果に基づいて日々のごはんなども展開していくシナリオを描き、さらに「BtoCで高めた顧客解像度を活用してBtoBへと事業展開をできれば」と戦略を語りました。

    意志・タイミング・物差しが重要

    後半は水本氏をモデレーターとして、3人でディスカッションが行われました。

    「大手の新規事業推進において、陥りやすい過ちは」と参加者から質問された守屋氏は「意志なき起業が第一の大罪であり、薄っぺらい意志で始めるとすぐに折れてしまう。自分ごとで本当にやろうとすると、あらゆるトラブルを乗り越えられるので、意志を持つことが大事」と答えました。

    また、「会社に収益規模を求められたらどう切り返せばいいか」と問われ、「本業基準で数字を求める人には、本業同等の投資をさせてくれと言えばいい」と話しました。

    母体がカーブアウトを認める理由やタイミングに話が及び、「自分がカーブアウトするイメージがまだ湧かない」という谷氏に対して、水本氏は「これから人を雇って大きな投資が必要になったときが検討するタイミングだろう」と応じました。

    そのほか、水本氏の「大手がどんどん立ち上げると、失敗したものの撤退が難しいのでは」という疑問に、守屋氏は「年1回大きな関所で玉砕しないように、近くに小さな関所をたくさん設けて、本人たちが撤退も含めて意思決定できるようにすることが大事」と回答。加えて守屋氏は「会社はなぜ新規事業をするのか、どんな基準で選ぶのかという物差しを決めておくことが大事。本業と違うことさえ理解できれば、大手企業は絶対に新規事業を生み出せる」と強調しました。最後に水本氏が「カーブアウトは単なる手法で、目的があればハマる可能性があるので、一つの選択肢として検討してほしい」と呼びかけました。

    今まさに新規事業に取り組んでいる谷氏のリアルな声と共に、事業創出や支援の実績豊富な水本氏と守屋氏から数々の具体的なアドバイスを聞くことができて、事業開発とその先にあるカーブアウトに関する理解が深まるセミナーとなりました。


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