豊田社長「自動車屋だからできるBEVに」
しかも、クルマの動力源をBEVに特化せず、全方位的に可能性を保つ戦略に変更はない。ホンダは2040年までに全てのモデルをEVかFCVに限定する。GMも同様に、すべての乗用車をEVかFCVにするのを2035年としている。アウディも2026年にはBEV以外の新車の投入を終え、2033年には完全なBEVメーカーになると宣言している。
だがトヨタは2030年に350万台のBEVを投入する傍らで、FCVはもちろん、水素を燃料とする内燃機関の投入も続けるという。あるいはブラジルで普及しているバイオエタノールを燃料とした内燃機関モデルも継続するというのだ。全方位的なエネルギー源戦略にブレはない。
そして同時に、「自動車屋だからできるBEVにしたい」とも口にしている。環境性能だけが優れていれば良いのではなく、クルマとしての走り味にも妥協するつもりはないとのことだ。
「昔のトヨタのBEVは嫌いだった。だけど、これからのトヨタのBEVにはワクワクする」
そう本音を口にしており、クルマが単に移動手段に成り下がることを懸念している。自らも水素を燃料としたレーシングカーでレースに参戦している豊田社長らしく、クルマの魅力を磨き上げることにも手を抜かないと宣言した。
他のメーカーが盲目的にEV化に邁進する中で、地に足がついた戦略で世界トップの座を死守するトヨタのシナリオが完成した。
【クルマ三昧】はレーシングドライバーで自動車評論家の木下隆之さんが、最新のクルマ情報からモータースポーツまでクルマと社会を幅広く考察し、紹介する連載コラムです。更新は原則隔週金曜日。アーカイブはこちら。木下さんがSankeiBizで好評連載中のコラム【試乗スケッチ】はこちらからどうぞ。