ロングセラーを読む

    「序列優先」で日本を読み解く 中根千枝著「タテ社会の人間関係」

    昨年12月に第133刷が出た。講談社現代新書全2646タイトルで、最も多く刷りを重ねている。累計発行部数119万部は「知的生活の方法」(渡部昇一著)と僅差の2位。日本の社会構造のあり方を分析し、昭和42年に刊行された。

    「新書の主な読者層である50~70代男性はもちろん、10~80代の幅広い世代にも読んでいただいているよう」と話す同社担当者は「ほぼ毎年重版がかかるのは、指摘されている社会構造が50年以上たっても変わらないから-ということに尽きると思います」と話す。

    新書の元になる論文が雑誌に発表され半世紀後の平成26年、著者を取材した際も同じことを語っていた。

    「外国では性別にかかわらず能力があれば若くても抜擢(ばってき)されるけど、タテが優先される日本では無理。個人の資格より集団に参加した時期(新旧)が問題になる。こういう社会構造は、時代が変わっても変わらないものです」

    小学校高学年から約6年、父が弁護士をしていた北京で暮らし、インドに3年、英国やイタリアでも研究を重ねた社会人類学者は、ソトから見た日本の集団構造はどの地方、どの組織でも同じだということに気づいたという。カースト制のインド、階級制の英国は同じ階層でつながる属性が重要なのに対し、日本ではどんな職業かの資格より、○○会社の構成員という場(枠)が重視されること。その場に入った順序が大きく影響されること…。良い・悪いではなく、それが日本型タテ社会なのだという見解だった。

    女性では初の東京大学教授や日本ユネスコ国内委員会会長などを歴任、文化勲章も受け昨年10月、94年の生涯を閉じた。その際、各紙誌は本書をもとに、閉塞(へいそく)感漂う現代社会を読み解こうと試みた。

    同じ作業を自身も令和元年、新書「タテ社会と現代日本」で行っている。同編集部がインタビューしたものをまとめた。終身雇用制が崩れ、50年以上前には大きな問題と認識されていなかった非正規雇用やパワハラ、そして孤独死について、タテのシステムを切り口に分析していった。そのなかで提言したことが、一つの〝場〟に固執するのではなく、職場以外に複数の居場所を見つける努力をするというもの。山岳地も1人で調査したフットワークの軽い学者の遺言に聞こえる。


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