欧州、相次ぎ国防増強 ドイツ大転換、北欧なども続く

    【パリ=三井美奈】ロシアによるウクライナ侵攻を受け、欧州諸国が軍備増強に動いている。発端になったのはドイツ。左派主導のショルツ政権は国防費の大幅増額に加え、米国との核共有(ニュークリア・シェアリング)のため、最新鋭戦闘機F35を購入する方針を発表した。ロシアの脅威増大で国民の危機感が高まる中、戦後伝統の「平和主義」の転換に動いた。

    ドイツの新国防政策は、ショルツ首相が2月27日、連邦議会で発表した。ロシアによる侵攻開始の3日後だ。「歴史は転換点にある。民主主義防衛には国防への投資が必要」と訴えた。

    ショルツ氏は「紛争地に殺傷兵器を送らない」という原則を翻し、ウクライナへの武器支援を表明した。そのうえで、現在は国内総生産(GDP)比1・5%の国防費を2%に増額し、軍備増強のため、1千億ユーロ(約13兆円)の基金を創設すると宣言した。

    F35はステルス性能が高い戦闘機で、ショルツ氏は「潜在的な核運搬機だ」として導入の意向を表明。メルケル前政権は3年前、核運搬を担う連邦軍機の選定で経費がかかるF35を排除したが、方針を一転した。

    ショルツ氏の中道左派与党、社会民主党(SPD)では近年、軍拡や核兵器はタブー視されていた。第2与党で、反核運動をルーツとする緑の党も同様だ。だが、ショルツ氏の演説には連立与党のほか、野党の保守系議員も立ち上がって拍手を送った。

    元SPD幹部は「ショルツ氏は5、6人の与党幹部だけに詳細を事前に伝えていた。紛争で世論が変わるのを見て、国防問題で一気に攻勢に出て、党内の反対を封じ込んだ」と話す。世論調査では、国防費増額への支持は7割にのぼる。

    緑の党のフーベルト・クライネルト元連邦議員は「今回の紛争は『民主主義を守る戦い』と見なされている。欧州の一員としてドイツも貢献すべきだという世論が強い。連立内の左派は国防増強に反対しにくい状況だ」と話す。自身もかつて反核デモの闘士だったが、「時代は変わった。現実的な対応が必要」と言い、ショルツ氏の方針を支持する。

    「GDP比2%の国防費」は北大西洋条約機構(NATO)の目標値で、メルケル前政権下では実現が難航した。当時第2与党だったSPDでは、左派重鎮が「核共有はやめるべきだ」と主張していた。昨年12月にショルツ政権が発足した際も、核問題は玉虫色の扱いだった。連立合意は核共有の継続を盛り込む一方、ドイツが核兵器禁止条約にオブザーバー参加することを定めた。

    独連邦軍では、冷戦時代に導入された軍用機や装甲車の老朽化が著しく、「これでは、いざというときに出動できない」として装備近代化の必要性が近年、指摘されていた。1千億ユーロの基金は欧州共同の次世代戦車開発、無人機購入や通信網整備などに使われる予定。一連の予算は連邦議会の審議を経て決定される。

    欧州ではドイツに続き、今月、デンマークやスウェーデンが国防費をGDP比2%に増額すると発表した。ポーランドは2%から3%にする方針だ。

    スウェーデンの国防費は現在、GDP比1・3%。アンデション首相は10日、「防衛力強化を国内外に示す」と増額の理由を述べた。デンマークの国防費は現在GDP比1・4%で、2033年までに2%にする。

    ポーランドは23年にGDP比3%に引き上げ、12万人規模の国軍を25万人に倍増する計画。現在、国会で法案を審議している。

    欧州では冷戦終結後、各国で国防費削減が進んだが、14年のロシアによるウクライナ南部クリミア半島の併合後、見直しが進んでいた。

    欧州連合(EU)は10、11の両日、仏ベルサイユで開いた首脳会議の宣言で「国防費の増額」を明記した。欧州委員会が5月、EU防衛産業に必要な投資を提示する見通しだ。


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