1.「傷病手当金」は給与が出ないときのサポート制度
プライベートの病気やケガ(つまり業務上の原因ではない)で長期間仕事を休まなければならないとき、会社からは基本的に給与が支払われません。その間のサポートとして、一定の要件を満たすと、健康保険(被用者保険)から1日につき給与日額の約3分の2を最長1年6カ月受け取れる「傷病手当金(しょうびょうてあてきん)」があります。
「収入はサポートするから、ちゃんと養生して治して復帰しておいで」という、健康保険に加入している会社員などを応援する制度です。
【傷病手当金を受け取るための一定要件の概要】
- 病気やケガ(以下、傷病)で仕事を休む必要がある
- 連続3日仕事を休みその後も同じ傷病で休んだ
- 休んでいる間の給与がない(支払われる場合は差額支給)
2.傷病手当金が法改正でさらに使いやすく
▼期間の「通算化」とは
たいへん心強いこの制度ですが、令和4年1月1日に制度改正が行われてさらに使い勝手が良くなりました。同じ「1年6カ月」でも、支給期間が通算化されるようになったのです。以下のような事例で改正前後を比較してみましょう。
事例
・病気で1カ月と3日休職し仕事に復帰(1カ月受給)
・5カ月後に再発して次は半年休職(6カ月受給)
・改めて仕事に復帰し3カ月勤務したけれども再発のため再び半年休職が必要になった…
この場合、改正前であれば休職期間13カ月の内、最初の受給から1年6カ月「後」までしか受け取れないため、最後の休職では3カ月分手当が切れてしまっていました。
これからは治療と仕事の両立が求められ、仕事をしながら必要に応じて休みも組み入れて療養するスタイルが主流になっていくでしょう。そのときにこういった形では仕事に復帰すると手当を受け取れず不利になってしまう人も出てきます。そこで時代に合わせて1年6カ月「分」受給できるスタイルに改正されました。
改正後は緑の日数を通算して1年6カ月分の日数に達するまで受給できます。図の点線の白い部分は不支給期間と呼ばれ、同じ傷病で休職した場合はカレンダー上の1年6カ月経過後であっても残日数分の傷病手当金を受け取れることになります。
▼改正後の注意点
気をつけたいのが改正前に支給をすでに受けていた場合です。
令和2年7月1日以前に受給開始していた人は、令和3年12月31日で1年6カ月になっているため、残念ながら改正の対象外です。しかし令和2年7月2日以後に受給開始した人は施行時の令和4年1月1日に受給期間が残っているため特例で改正後の制度が適用されます。
3.素朴な疑問…傷病手当金と有給休暇、どちらが良いの?
▼どちらを使うか悩ましいケースとは
ところで会社を休んでもお金がもらえる制度に有給休暇もあるため、どちらの方がより多く支給を受けられるのか気になるところかと思います。
長期間にわたり休職する必要があるとわかっている場合は、基本的には傷病手当金を使うのが良いでしょう。悩ましいのは有給休暇でも収まる程度の期間で済みそうなときです。
事例で考えてみましょう。
Aさんの事例
・Aさんは、入院や在宅療養も合わせて医師から「2週間は休む必要がある」と言われた。
・Aさんが有給休暇を使ったときの1日の額:1万円
・Aさんが受給できる傷病手当金の1日の額:6,000円
※あくまでも例です。実際の額は勤務先の規定や給与などによって異なります
▼有給休暇と傷病手当金、そもそもの違いを理解しよう
ポイントは、「有給休暇はそもそも出勤日となっている日に会社を休む場合に、その日の規定額が払われる」という点です。そもそも休みの日に傷病で休んでいても有給休暇扱いにはなりません。
いっぽう傷病手当金はそもそも休日となっている日も含めて支給される点が違います。
下の図表は先述のAさんのケースに当てはめて図示したものです。
結論としてはゴールデンウィークや年末年始などそもそも休日となっている日が多く含まれる期間と重なる場合は傷病手当金のほうが結果として支給額が多くなる可能性はありそうです。
ただし有給休暇の日の賃金額の設定は会社や各自の契約内容等で異なるため、傷病手当金日額と有給休暇の額を共に確認した上で決める必要があります。
4.もしも治らなかったら…障害年金を受給するときの注意点
現役世代でも、病気やけがなどで障害が生じたときには、公的年金(国民年金・厚生年金)の制度として、「障害年金」が支給される可能性があります。