消費税は不可侵領域か
ところでこのような「悪い円安」論は、日本銀行の“金融緩和やめろ論”につながっている。
ドルと円の交換比率が為替レートなので、米国が金融引き締めスタンスをとり、日本が金融緩和スタンスをとれば、円安ドル高は自然と生じる。そもそも米国はコロナ禍からの回復と大規模な景気刺激策によって高いインフレになっている。失業率は低水準で、むしろコロナ禍でレイオフされた高齢労働者を中心に、雇用の場に人々が戻ってこない「大いなる退職」といわれる現象が顕著だ。
つまり人出不足によって賃金圧力が増し、それがコロナ禍によるエネルギーや資材の不足と重なり、高いインフレをもたらす背景にもなっている。
対して日本の方は、経済の低迷が続いている。雇用を見てみると、2020年前半に大きく労働需要が落ち込んだまま、コロナ禍前の水準には戻っていない。最も広い範囲を示した日本の失業率に、未活用労働指標(LU4)がある。通常の失業者に加えて、より長く働きたいのに働けない人、そして景気が悪すぎて働くことを断念した人たちを加えたものだ。
コロナ禍前までは、LU4は5.7%と低水準だった。現状では一時期ほど悪化はしていないが、6.2%と高止まりしている。特に労働集約的なサービス部門(小売り、建設、観光・飲食など)を中心に雇用状況の停滞が続いている。
高いといわれているインフレ率も米国(8.5%)やイギリス(7%)、ユーロ圏(7.4%)と比較すると、日本は消費者物価指数(総合、前年同月比)は1.2%にしかすぎない。もちろん、ここには携帯料金の引き下げ効果という政策要因があり、それは4月の統計からは一部剥落する。さらにウクライナ戦争の動向によってエネルギー価格などの高騰は不可避だろう。それを勘案すれば、4月の消費者物価指数(総合)は2%を上回るのは確実だ。
ただしこの物価上昇だけをみて、「日本銀行はインフレ目標が2%なのだから金融引き締めだ!」と考えるようでは、経済の基本である雇用への関心がゼロだ、と言っているようなものだ。そもそもエネルギーを除く基調インフレは、携帯料金の引き下げ効果を除外しても、せいぜい0%台後半でしかない。つまり安定的な経済・雇用水準と適合する安定的なインフレ率には遠い。
金融緩和をやめれば、日本は玉川氏らの意見と異なり、再び経済停滞の罠にはまるだろう。影響力のあるテレビで、日本経済の衰退をもたらすような断言をするのは、あまり賢慮な行為とはいえない。