「自由のため」水平に結束が強み ウクライナのアナリスト分析

    ロシアによる軍事侵攻について、ウクライナの新進気鋭の政治アナリスト、ミコラ・ダビジュク氏(33)は産経新聞の取材に、「自由を守るために国民が横に結束していること」がウクライナの強みだと指摘し、「露軍は決して強くない」と述べた。他方、ロシアが核兵器によってウクライナと米欧を恫喝(どうかつ)していることに関しては「世界に対する脅威だ」とし、露産の石油・天然ガスの輸入拒否など制裁の強化を訴えた。

    キーウでインタビューに答えるダビジュク氏=4月20日(桐原正道撮影)
    キーウでインタビューに答えるダビジュク氏=4月20日(桐原正道撮影)

    露軍は首都キーウ(キエフ)の早期制圧を狙ったが、郊外のブチャやイルピン、ボロディアンカで強い抵抗に遭い、北部一帯からの撤退に追い込まれた。黒海艦隊の旗艦「モスクワ」は沈没した。ダビジュク氏は「露軍の兵器には想定の3倍以上の損失が出ている」とし、「ロシアはウクライナに供与されている高精度兵器に対抗できていない」との見方を示した。

    ウクライナの善戦の背景としてダビジュク氏が強調するのは、軍と国民に「自由を守る」「国を守る」との明確な意志があり、「皆が自分にできることをしている」ということだ。

    「プーチン(露大統領)を頂点とする垂直のヒエラルキーが存在するロシアと違い、ウクライナの社会は水平的だ。侵攻後は軍人も、(志願兵組織の)領土防衛隊も、一般国民も、皆が水平の軍隊となってともに戦っている」

    ダビジュク氏自身、事務所を通じて、何台かの車やヘルメット、防弾チョッキを軍に送ったほか、必要としている人への食料支援を行っている。「こうしたことをする事務所や家庭は無数にある」という。火炎瓶を用意して戦車の通過に備える人も決して珍しくない。

    侵攻後もキーウから脱出せず、指導者として国際的に注目されているゼレンスキー大統領については、「彼は(PR戦略がうまいわけではなく)平均的なウクライナ人を反映しているにすぎない。国民の一員として戦うべきだと考えている」と指摘。「コメディアン出身の大統領として人々の喜怒哀楽を理解していること」がゼレンスキー氏の大きな長所だと述べた。

    同時に、ダビジュク氏が懸念しているのは、ロシアが核兵器の使用をちらつかせていることだ。

    「20世紀には核兵器が抑止のためのものだったが、21世紀の今、ロシアは核兵器を脅迫に使い始めた。核は防御兵器から攻撃兵器に変わってしまった」。ダビジュク氏はこれを「世界に対する大きな挑戦だ」と指摘し、「ロシアが常任理事国の座を占める国連安全保障理事会の改革も急ぐ必要がある」と述べた。

    ウクライナをめぐっては従来、ロシア語話者の多い東部や南部は親露的だと考えられてきた。しかし、今回の侵略では東部のハリコフ州やスムイ州でウクライナが露軍に徹底抗戦し、南部のオデッサ州も露軍の本格的攻撃を阻んでいる。

    「何語で話しているかは関係ない。英語を話すアメリカにも英国との独立戦争があった。誰も自由のないロシアのように生きたくないのだ」。ダビジュク氏はこう語り、「ロシアがわれわれとの友好関係を望まず、われわれを滅ぼそうとしていることを人々は認識した」と説明した。

    ダビジュク氏によると、ロシアがウクライナ侵攻で使っている戦費は多いときで1日10億ドル(約1300億円)。これは欧州諸国がロシアから輸入している石油・天然ガスの1日分の代金にほぼ等しい。「石油・ガスの代金が戦争にそのまま使われている」とし、軍事行動の資金源を絶つよう求めた。(キーウ 遠藤良介)


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