史上最大のロケット「SLS」と宇宙船「オリオン」の打ち上げ準備が着々と進んでいる。月と火星へヒトを送り込むNASAの「アルテミス」計画が、今回の打ち上げによってその第一歩を踏み出そうとしているのだ。この超大型ロケットには、日本の超小型探査機「OMOTENASHI」も相乗する。SLSから射出された同機は月へ赴き、月面着陸を試みる。成功すれば日本の探査機としては初の月面着陸となる。
史上最大のロケット「SLS」と、史上初の軌道に投入される宇宙船「オリオン」、そして日本初の月面着陸機「OMOTENASHI(オモテナシ)」。今回はその真価と進捗をご紹介したい。
SLS初打ち上げ、月面から7万kmの軌道へ投入
今回のミッションは「アルテミスI」と呼ばれ、新しく開発された有人宇宙船「オリオン」が、史上最大のロケット「SLS」(Space Launch System)によって打ち上げられる。このローンチが両機の処女飛行となるが、オリオンにクルーは搭乗しない。つまり無人ミッションとなる。
オリオン宇宙船は8日から14日かけて月へ赴き、月を周回する軌道に投入される。しかし、この軌道は一般的な月周回軌道ではない。過去の宇宙機がいちども投入されたことのない「DRO(Distant Retrograde Orbit)」という、月の自転と逆行して周回する、半径の大きな特殊軌道だ。
アポロ11号の場合は、183~186kmほどの高度で月を周回したが、オリオン宇宙船は月からの半径が最遠7万kmという大きな円を描きながら、月の向こう側を半周、もしくは月を1周半する。
DRO軌道への滞在期間は打ち上げ時期によって変わるが、最短6日間、最長では19日間。その後、軌道を離脱すると地球へ帰還し、太平洋へ着水する予定。トータルで26日間から42日間におよぶミッションになる。
【アルテミスIがよくわかる動画】
このアルテミスIに成功すれば、2024年には「アルテミスII」として4名のクルーがオリオン宇宙船に搭乗する。このミッションでは月周回軌道へ乗らず、月の向こう側7,400km(4000海里)の領域をパスして地球に帰還する。
そして2025年の「アルテミスII」では4名のクルーがオリオン宇宙船に搭乗し、うち1名の女性と1名の男性が、57年振りに月面へ降り立つことになる。
リハーサルで不具合が発生、夏以降に打ち上げ延期
4月17日(UTC、以下同)、オリオン宇宙船を搭載したSLSロケットの最終的な打ち上げ事前テスト「ウェット・ドレス・リハーサル」(WDR)が行われた。
そのちょうど一カ月前の3月17日、米フロリダ州にあるケネディ宇宙センターの組立棟(VAB)から姿を現われたSLSロケットは、時速1.6kmで自走する巨大な移動式発射台に載せられ、6.4km離れた発射台まで移動、設置されていた。
「ドレス・リハーサル」とは、本番と同じ衣装を身に着けて行われる演劇リハーサルのこと。ロケットの場合は液体燃料などを実際に注入するので、その頭に「ウェット」を付つけて呼称される。
このWDRでは、発射10秒前までのカウントダウンを実施。それによってロケットの状態を最終確認し、管制スタッフ、地上作業員ともども、本番と同じ打ち上げ行程を確認する。
しかし、今回のWDRでふたつの不都合が判明した。
SLSは2段式のロケットなのだが、その第2段(アッパー・ステージ)からヘリウムの漏洩が見つかり、また、1段目(コア・ステージ)からは燃料である水素の漏洩が見つかったのだ。SLSは推進剤として液体水素と液体酸素を使用するロケットだが、それらをタンクから押し出すためにヘリウムが使用されている。そのヘリウムを入れるための逆止弁と、液体水素を注入するアンビリカル(「へその緒」の意)と呼ばれる装置から、それらが漏洩したのだ。