入試における男女の定員設定については、大きく3つの意見があると考えられる。
《入試の募集定員設定をめぐる3つの意見》
A. 男女別に定員を設定するならば男女同数であるべき
B. 男女別に定員を設定し、人数は異なってもよい
C. 定員を男女別にすること自体やめるべき
以下では、医大入試ではなく、一般的な中・高校入試を対象に話を進める。
共学の中・高校では、男女別に定員を設定しているところが大半である。例えば、早慶を代表する共学の中学校を見てみると、以下のようになっている(※〈〉内は上記「3つの意見」のうちどれに該当するかを示している)。
- 早稲田実業学校 中等部〈B〉/約110名(男子 約70名、女子 約40名)
- 慶応義塾中等部〈B〉/男子 約140名、女子 約50名(内部進学者の進学状況により多少の変動がある)
一方、東京都立中等教育学校及び東京都立中学校(一般枠)となると、全10校のうち、小石川及び白鴎が「男女を問わず」〈C〉、それ以外の8校は全て「男女同数」〈A〉の設定となっている。
ここまでを見ると、中学入試では「A. 男女の人数が同じ」「B. 男女で人数が異なる」「C. 男女別には定めない」の3つが普通に並存している。要は、男女比の設定は各校の自由ということである。例えば、慶応は高等部に女子校を有しており、共学である中等部に在籍する女子がそこに進学するケースもあることから、女子比率が約3分の1に設定されていたりする。
であるならば、冒頭からの私立医大の定員設定も早実や義塾のようにBの「男女で人数が異なる」にしてしまっても問題ないのではないか? 世間を騒がせたにも関わらず、なぜCの「男女別を定めない」に固執しているのだろうか?というのが一つめの結論(問題意識)である。
男女同数でも解消できない「歪み」
じつは、論点はもう一つある。
とくに今春強く感じたのであるが、都立中高一貫校における合否(予想と実際のギャップ)の傾向を男女別で見ると、女子はほぼ予想どおりなのだが、男子は上振れする(予想を違えて合格する)生徒が少なくない。また、男女別の倍率にもよるが、中学受験全体では、最難関の共学校を除けば、男子よりも女子のほうが合格最低点(合格ライン)が高くなる傾向にある。
つまり、募集定員の半数またはそれ以上が男子枠だと、成績が同じくらいの男女にとっては、男子は有利(女子は不利)なのである。男子の合格最低点以上のであるにもかかわらず、“女子枠”で戦わざるを得なかったが故に不合格となる女子受験生が少なくないということだ。
冒頭の私立医大の件では、「医学部入試における女性差別対策弁護団」が結成され、記者会見では共同代表の女性弁護士たちが「女子学生への許しがたい差別」と憤っていたらしいが、点数操作による男子優遇が許しがたい男女差別であるならば、男女同数の募集定員を設定した結果として合格最低点が男女で異なることも、少なからず男女差別ではないのか?
「最少人数を定める」が落としどころか?
愚考するに、共学校の募集定員については、学校運営に困難を来たさない限り「男女別には定めない」、あるいは「100名中で男子・女子とも最低40人」のように「男女別に最少人数を定める」のが、より今日的ではないだろうか。
【受験指導の現場から】は、吉田克己さんが日々受験を志す生徒に接している現場実感に照らし、教育に関する様々な情報をお届けする連載コラムです。受験生予備軍をもつ家庭を応援します。アーカイブはこちら