「スタグフレーションが来る」報道の違和感 エネルギー価格の消費減税も選択肢に

原発再稼働が効果的だが…

日本のインフレの主因がエネルギー価格であるならば、そのインフレへの影響をどうとらえるかが焦点になる。つまり、もともと海外から供給制約(世界経済回復でも石油増産の困難、ウクライナ戦争などの要因)によって高い買い物をしているからである。マスコミの一部が喧伝している「悪い円安」によるエネルギーの輸入価格への影響は、せいぜい10のうち1ほどである。しかも最近の好決算でもわかるように、日本企業の多くが円安によって恩恵をうけている。また最近では、円安傾向にも一服の傾向があり、極端な変動はみられない。

米西部カリフォルニア州ロサンゼルスの石油貯蔵施設(ロイター)
米西部カリフォルニア州ロサンゼルスの石油貯蔵施設(ロイター)

この状況の中で、エネルギー価格の高騰が今後も持続するかどうかは、ウクライナ戦争要因(こちらはエネルギー価格高騰に寄与)や中国のゼロコロナ政策による世界経済への悪影響(こちらはエネルギー価格低下に寄与)など不確実性が高い問題にかかわる。だが、通常の経済的な知識によれば、エネルギー価格の一時的な高騰は次第に経済の中で減衰していくというのが常識だ。

ただし、もし1年以上持続的にエネルギー価格の高騰が続くとしたらどうなるか。政府には積極的な財政出動と金融緩和の維持のポリシーミックスが“いま以上に“要求されるだろう。“いま以上に”というのは、今でも積極的な財政出動と金融緩和の維持が必要だからだ。

日本経済の実態は、インフレ目標実現にまだ遠いと考えるべきだ。国内総生産(GDP)速報でもマイナス成長であり、デフレギャップも簡単な試算では年率換算で20兆円近く存在している。失業率も安倍政権下で実現した2.2%よりも2.6%と高いままだ。一時的な要因で、生鮮食品を除く物価指数で、対前年同月比で2.1%の上昇であっても経済は脆弱なままである。

金融緩和をやめれば雇用は悪化してしまうだろう。また財政政策では、消費税減税が望ましい。政策効果は極めて減少するが、エネルギー価格だけ個別に消費税を引き下げることも選択肢としてはあるだろう。脱炭素化社会を目指す中で、エネルギー価格を引き下げるのはおかしい、という経済産業省あたりの意見もある。まるで庶民の生活苦を考えない経済貴族的な発想である。脱炭素を強調するのであれば、今般のエネルギーのひっ迫を考えるならば、原発の再稼働推し進めることが効果的だろう。

だが、内閣支持率が極めて高い中で、政治的な冒険をおかすことは岸田首相の選択肢にはないようだ。積極的な財政政策で財務省を怒らすようなリスクはとりたくない、原発再稼働で政治的なリスクをとりたくない、というゼロリスク政策が岸田首相の基本スタンスだろう。参院選まではこのゼロリスク政策をとり、選挙で勝利すれば、その後は増税などの負担増政策と金融緩和の終了を目指すのではないか。その緊縮政策への転換がいまの日本経済に大打撃を与えるのは自明である。

米国の「大離職」問題

他方で、日本経済にも大きな影響を与える米国経済についても簡単に見ておこう。

米国は現時点で8.5%に達する戦後でもまれに高いインフレを経験している。そのため中央銀行である連邦準備制度理事会(FRB)は、金融引き締め政策に乗り出している。このことを反映して、1930年代の大恐慌以来となる数週間連続の株価下落にも見舞われた。

ところで米国のインフレにはどのような要因が関係しているだろうか? もちろんエネルギー(石油、天然ガスなど)の価格高騰も大きく寄与しているが、それだけではない。経済の主要部門が米国のインフレに大きく貢献している。例えば、コロナ禍の中で大胆な金融緩和政策を続けたために、株式市場やさまざまなリスク性の資産取引が活発化した。

その恩恵をうけた人達が、不動産の購入に向かい、それが住宅価格の高騰を招いた。またコロナ禍から本格的に脱したことで、国内の航空機の利用や観光・ビジネスでの宿泊サービスの価格も上昇した。さらにコロナ禍で、職を追われる人達に対応するために、米国政府は手厚い失業保険を提供した。この失業保険が、「大離職」といわれる現象を招いてしまった。

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