「言葉の壁」手探り…避難の少女、中学編入へ

    ロシアによる軍事侵攻を受け、ウクライナから日本に避難してきた女子中学生が、公立中への編入に向けた準備を進めている。最大の心配事は「日本語」。授業が日本語で行われるだけでなく、日本人の生徒と同じ教科書を使って学ぶことになる。地元自治体が支援する日本語教育にも限界があり、手探りでの学校生活のスタートとなる。

    両親と一緒に日本語を勉強するコーベルデューク・ソフィアさん(中央)=5月、東京都台東区(深津響撮影)
    両親と一緒に日本語を勉強するコーベルデューク・ソフィアさん(中央)=5月、東京都台東区(深津響撮影)

    ウクライナ南東部のクリヴィー・リフで暮らしていたコーベルデューク・ソフィアさん(13)は3月、日本に住む叔母を頼って両親とともに祖国を離れ、現在は東京都台東区内の都営住宅に入居している。

    日本に避難後もオンラインで週5日、ウクライナで通っていた中学校の授業を受けていたが、今月14日に区立中に編入することが決定。日本の中学1年に相当する学年を修了したため、区立中では2年生のクラスに加わる。

    5月中旬には学校側から約1時間にわたって説明を受けた。文部科学省が作成した外国人生徒向けの「就学ガイドブック」を受け取り、一日の授業の流れなどについても話を聞いた。制服やカバンなど必要な物品も買いそろえたという。

    「家にずっといるのはつまらない。同級生と早く友達になりたいし、日本の学校での勉強を楽しみにしている」と笑顔を見せるソフィアさん。懸念されるのは、日本人の教員が日本語で授業を行い、日本語で書かれた教科書を使用することだ。「日本語を話せないことだけが不安」と本音ものぞかせた。

    ソフィアさんは、ウクライナ語以外にロシア語と英語を話せるが、日本語は来日後に勉強を始めたばかり。学校から事前に配布されたテキストで、あいさつや返事など基本的な単語から学んでいるが、まだ発音のみで、文字の練習はしていない。「単語は覚えているけど、文章にすることが難しい」と打ち明ける。

    父のミハイルさん(39)も「言葉が通じないことで、いじめられてしまわないか」と話す一方、「日本語を早く覚えられるだろうし、友達もできるのではないか」と期待を込める。

    区は日本語教育の支援として、学校に年間64時間を上限に日本語講師を派遣し、基礎的な日本語の指導を行う。避難民家族に1台貸与している小型翻訳機を授業や学校生活に活用することも想定している。

    学校では、英語教諭がクラス担任を務める。副校長は「クラスメートにもソフィアさんの事情を説明し、尊重するよう指導していく。手探りでのスタートになるが、区と連携してできる限りのサポートをしていきたい」と話した。

    ミハイルさんは「心から助けてくれる姿勢を見せてくれている。学校の体制を不安に思うことはない」と信頼を寄せる。ソフィアさんは「『将来も日本に住むためには勉強を頑張らないといけない』と両親と話している。成績が良ければ、日本の大学に入りたい」と夢を語った。

    自治体も支援の道模索

    ロシアの軍事侵攻から3カ月が過ぎ、ウクライナから日本への避難民は1000人を超えた。滞在長期化も想定される中、就労や子供の教育などに立ちはだかるのが「言葉の壁」だ。受け入れ先の自治体は避難民への日本語教育に加え、職員側でもウクライナ語習得に励むなど壁を乗り越える道を模索している。

    東京外国語大が4~5月に計6回開催したウクライナ講座には、避難民支援に携わる自治体や企業、NPO法人など計63団体の96人が参加。ウクライナ語を含むスラブ語学の第一人者である中沢英彦名誉教授からあいさつや行政手続きに必要な単語などを教わった。参加した愛知県の担当者は「避難民に寄り添うため、相手の言葉や文化を学ぶのは重要だ」と力を込める。

    日本国内では現状、通訳の確保は難しい。新潟県国際交流協会がウクライナ語とロシア語の通訳を募集したところ、今月10日時点で24人が集まったが、ウクライナ語を日常会話レベルで話せるのは2人にとどまる。担当者は「役所の手続き以外に教育現場での対応も必要。ウクライナ語通訳の登録をできるだけ増やしたい」と話す。

    教育現場での課題は日本語の指導だ。文部科学省によると、1日時点で全国の幼稚園や小中高校に通う避難民は75人に上り、さらに50人が通学に向けた相談を行っている。10日時点で市立の小中学校に4人を受け入れている横浜市教育委員会は「日本での生活に不安を感じている避難民の子供が、安心して学校に通えるようにしたい」と話した。(深津響、太田泰)


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