学校給食の「黙食」 緩和か、維持か 会話解禁の自治体も

    新型コロナウイルス感染者の減少に伴い、学校給食の「黙食」を見直し、会話を解禁する自治体が出始めた。大声で話さないことなどを条件にした段階的な緩和だが、食育の観点からも歓迎されている。ただ、多くの学校現場は黙食を継続。政府は夏にかけての感染再拡大に警戒を強めており、すべての学校が正常化に向けて一歩を踏み出すには時間がかかりそうだ。

    給食で対面せず、前を向いて黙食する児童ら=16日午後、東京都荒川区(鴨志田拓海撮影)
    給食で対面せず、前を向いて黙食する児童ら=16日午後、東京都荒川区(鴨志田拓海撮影)

    「昼どきの教室に会話が戻るのは2年ぶりです」

    黙食の緩和に踏み切った福岡市教育委員会の担当者はこう語る。市教委は九州大学病院グローバル感染症センターの助言も踏まえ、13日付で市内の小中学校と特別支援学校に「大声でなければ会話も可能」と通知。子供たちはこれまで通り前を向いたまま給食をとるが、献立の感想などについて語らいながら食事を楽しめるようになった。

    判断の決め手となったのは感染者数の減少だ。福岡市で確認された感染者は2月には2千人を上回る日もあったが、今月18日には234人まで減っている。

    児童生徒や保護者から緩和を求める要望も多かったといい、市教委は「感染状況に応じて可能な学校で進めてもらいたい」と話す。

    大声は控えて

    宮崎県教委も3日、県立学校に呼びかけてきた黙食の見直しを学校現場に通知した。会話が解禁されることになったが、福岡市と同様に大声での会話や向かい合っての食事は引き続き控えるよう求めた。

    首都圏でも、千葉県教委が4月に緩和方針を打ち出している。ただし、こちらでは会話の禁止は継続。間隔を確保した上で向かい合っての食事を認めた。

    黙食を窮屈に感じる子供がいるのも確かだ。鳥取県米子市教委が小学5年と中学2年を対象に昨年9月に実施した給食アンケートで、「友達と楽しく食べられる」と答えた小5は8・8%、中2は11・2%。ともに令和元年度の20・3%、18・0%から大幅に低下し、「黙食指導の影響」(市教委)が指摘された。

    「コミュニケーションを取りながら食事を楽しむことも集団生活では大切」。黙食が続く東京都内の公立小に勤める女性教員(39)はこう話し、「感染状況に応じた緩和も必要なのかもしれない」と続けた。

    制限を緩和した福岡市教委も「黙食は食育の観点からも望ましくない」(給食運営課)とし、学校生活の正常化に向けた一歩に期待をのぞかせた。

    頭悩ます学校現場

    とはいえ、すべての学校現場が緩和に踏み出せる状況にはないのも事実だ。

    7月以降は、夏休みによる人流の増加や、オミクロン株の新たな系統への置き換わりが進む可能性などがあり、「夏ごろには感染者数の増加が懸念される」(後藤茂之厚生労働相)。制限緩和の一方、こうした状況も踏まえて警戒を維持する学校現場はなお多い。

    「いただきます!」。今月16日午後0時半過ぎ、東京都荒川区立第三日暮里小。1年生の児童らは声をそろえると、マスクをはずした。教室には箸やスプーンが食器に当たる音だけが響き、子供たちは前を向いたまま黙々と給食を口に運ぶ。

    おかわりをするため配膳台に向かう際も、子供たちはこまめにマスクをする。

    校内放送が始まった。

    《おしゃべりはしないで、前を向いて食べましょう》

    末永寿宣(としのぶ)校長は「学校生活と感染対策の両立が求められるようになり、子供たちは黙食やマスク着用を柔軟に受け入れている。黙食が児童や保護者に安心感を与えている面もあるので、やめると判断するハードルはとても高い」と語った。(玉崎栄次)


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