軽増税に自動車業界が猛反発 絶好調なのに…不満の声相次ぐ

底流

 消費税増税に伴い平成27年に廃止される自動車取得税の代替財源を確保するため、総務省は軽自動車税の増税に向け調整に入った。仮に減収分をそのまま上乗せすると、いまより負担が7割増える。維持費の安さと各社の新モデル投入で絶好調の軽自動車市場だが、増税となれば大幅な販売台数の減少も危惧される。上昇ムードの日本経済を牽引(けんいん)する自動車産業に与える打撃は大きく、業界は強く反発している。

 不満爆発

 「あっちが足りないからこっちから取るなんて、考え方が貧弱だ。筋が通らない」

 軽自動車で国内2位のシェアを持つスズキの鈴木修会長兼社長は、1日の9月中間決算会見で不満をぶちまけた。自動車業界が25年度の税制改正で政府・与党から約束を取り付けた取得税の廃止を、同じ車体課税から取り戻そうとする総務省のやり方に憤懣やるかたない状況だ。

 会見で鈴木会長は国際的な水準でみると、国内では優遇されている軽自動車税の税額こそが車体課税の標準だと指摘。その上で「消費税も増税になる以上、軽自動車増税は避けてほしい」と求めた。

 シェア1位のダイハツ工業、三井正則社長も黙ってはいない。10月31日の決算会見では「仕事に出るにも買い物に出るにも軽自動車じゃないと困るというお客さんが大勢いる」と増税の動きに強く反発した。

 軽自動車は公共交通機関が衰退した地方を中心に、生活の足として重宝されている。一家で複数台所有している家庭も珍しくなく、税額が上がれば日常生活に影響が出るのは必至だ。

 最大7割増税

 「(税の)バランスを欠いている。負担水準の適正化を検討すべきだ」

 総務省の有識者検討会がまとめた報告書は、今の自動車税制を改めるよう提言した。排気量1千cc以下の小型車でも自動車税は年2万9500円かかる。一方、軽自動車税は最大7200円にとどまることを踏まえた措置だ。検討会は軽自動車と普通車の間に「かつてほど大きな差異は認められない」と指摘し、格差の是正を求めた。

 総務省が考える「適正化」とはもちろん増税だ。

 自動車の購入時に課される取得税は年間約1900億円(25年度当初予算ベース)にのぼり、ほぼ3対7の割合で都道府県と市町村に分配される。

 総務省は自動車税(都道府県の財源)と軽自動車税(市町村の財源)の課税方式を低燃費車の購入促進に結びつく形で見直すと同時に、差額が縮小するよう軽自動車に税額を上乗せし、取得税廃止に伴う減収分を回収する考えだ。

 総務省幹部は「地方自治体から不満が出ない形で収めたい」と話す。仮に取得税の税収分だけ都道府県と市町村に財源を再配分すると自動車税は数%、軽自動車税は約70%の増税になる。

 一方、自動車大手幹部は「税額が7割増えれば年間販売台数は数十万台規模で減るだろう」と漏らす。25年の軽自動車の販売台数は200万台を超え、過去最高を7年ぶりに更新する可能性もある。増税で販売に水を差されるのは避けたいのが本音だ。

 業界の分裂懸念

 攻防の舞台は、年末にかけて行われる26年度税制改正協議に移る。自動車業界はデフレ脱却に向け安倍晋三政権が求める賃上げの牽引役を担っており、増税となれば賃上げの動きが鈍るのは避けられない。

 一方で、総務省側は全国知事会を始め強い政治力をもつ地方自治体を背後に持つ。双方の“応援団”が激突すれば議論は難航しそうだ。

 そこで総務省が期待するのは自動車業界の足並みの乱れだ。軽自動車は大きさや排気量の制限に加え、高い燃費性能や室内空間の広さなどを両立するため、開発費用が高い。

 業界関係者は「軽の利益率は小型車の2分の1程度。普通車の販売を伸ばしたほうが経営的には有利だ」と認める。

 業界内でもダイハツやスズキなど本気で軽自動車の開発に取り組むメーカーと、軽自動車の販売が好調なため他社からOEM(相手先ブランドによる生産)供給を受け販売を継続する社に二分されている。

 普通車の販売を伸ばすため、軽自動車増税に目をつぶる社が出ても不思議ではない。

 日本自動車工業会の豊田章男会長(トヨタ社長)は「軽自動車と登録車(普通車)が一枚岩で車体課税の不公平をなくすよう求めている」と強調した。

 だが、業界側の足並みがそろわなければ、増税の流れは止められそうもない。(田辺裕晶)