ディーゼルエンジン“満タン”でどこまで行ける? ボルボ「V60」を試す!

提供:PRESIDENT Online

 「満タン」ディーゼル車で西に向かう

 日本の乗用車マーケットにおいて、長らく日陰の存在となっていたディーゼルエンジンを搭載するモデルがこのところ急速に増えている。日本でのディーゼルムーブメントの火付け役は2012年にクロスオーバーSUV『CX-5』を皮切りにディーゼルの展開を大々的に推し進めたマツダだが、そのマツダに続いたのは国内のライバルではなく欧州車勢だった。

 早かったのはBMWで、2リットルターボディーゼルを幅広くラインナップしたところ、モデルによっては5割超をディーゼルが占めるようになった。それを見て、ディーゼルの投入自体はずっと早かったメルセデス・ベンツはV6に加えて4気筒の2.2リットルターボディーゼルを追加。8月29日発売のジャガーのコンパクトサルーン『XE』には最初から2リットルターボディーゼルが設定されている。また、フォルクスワーゲン、プジョーなど他のブランドもディーゼル投入を表明している。

 その欧州勢のディーゼル、日本でのパフォーマンスはいかほどのものなのか。昨年、プレジデントオンラインでBMW『320d M Sport』を500kmあまりテストドライブした様子をリポートしたが、今回はもっとハードに、満タン給油後、ワンタンクでどのくらい走れるものかチャレンジしてみることにした。テスト車両は7月にスウェーデンのボルボが一挙に5車種投入したディーゼルモデルのひとつで、ミドルクラスのステーションワゴン『V60 D4 R-DESIGN』である。

 東京で燃料を満タンにして、ひたすら西を目指して走る。東名高速、小田原厚木道路を走行後は高速を下り、箱根峠を越え、そこからは静岡から愛知にかけて断続的に伸びる長大なバイパス群を走行して琵琶湖のほとり、滋賀・草津に向かった。

 ボルボが日本に導入した「D4」ディーゼルエンジンは欧州でもデビューからそれほど時間が経っていない新世代技術のもので、性能は190ps/400Nm。車両重量は1680kgと、同じミディアムクラスの欧州勢と比べても重量級なのだが、1250rpmで3リットル6気筒自然吸気ガソリンの最大トルクに匹敵する300Nm、1750rpmで4リットルV8ガソリン並みの4000rpmと、低速域から強大なトルクを発生させるエンジン特性がモノを言って、市街地から高速に至るまで、ボディの重量を意識させられることはほぼ皆無であった。

 面白いのはアイシンAW製8速ATの仕様。通常、ディーゼルエンジンは低速域では強力だが回転の上限が概ね5000rpm前後とガソリンに比べて低いため、全般的にギア比を高め(回転数が低くてもスピードが乗る)に設定するケースがほとんどだ。

 ディーゼル自動車の乗り心地は

 ボルボの場合、加速力を目いっぱい引き出せるよう1速から3速まではガソリン車並みに低いギア比、その上の4~6速が郊外一般道を、7~8速が高速道路や高規格幹線道路を燃費良く走るために低い回転数で走るハイギアード設定になっている。そのため、停止時からのスタートダッシュをはじめ、多くの局面でエンジンの持っている性能を目いっぱい引き出しやすい。一般道、高速道とも制限速度が欧米に比べて格段に低い日本の道路への適合性の高さは、国産勢のマツダを含めてもトップクラスと言えるものであった。ちなみに8速・100km/h巡航時のエンジン回転数は1500rpmを少し切ったくらいであった。

 草津からは京都市街を通る国道1号線ではなく、京都北方に広がる丹波高地を抜ける国道477号線を経由して山陰方面へと向かった。杉や檜の大森林を細い道が縫うように走る荒れた道路で、鞍馬天狗伝説が生まれたのもわかるような神秘的な雰囲気が漂う場所だ。山岳路であるため、きつい急勾配や加減速を繰り返すS字カーブが延々と連続する。

 ボルボの新型ディーゼルはそのような道において、とても良い粘りを見せた。ターボ車はカーブで減速した後に再加速するようなとき、スロットルを踏んでから有効なパワーが出るまでに少し遅れがあるのが常なのだが、ボルボのエンジンはその後れがきわめて小さく、自然かつリズミカルに山岳路を駆け抜けることができた。

 丹波高地を抜けると、そこはのどかな京北の山村。水が良いことで知られ、太古から京都の御所の一大食料供給源となっていたと伝えられている。その道端に、裏手の畑で栽培した蕎麦を手打ちで出すという蕎麦屋を見つけたので入ってみた。通過日は30度台後半という猛暑であったが、それでもテラスで外を見ながら冷たい蕎麦を食べるのは気持ちがいいものだ。最初の一口は汁をつけずにそのままいただいてみたのだが、新蕎麦の時季ではないにもかかわらず甘味が豊かで、とても美味しく感じられた。

 山陰に入ってからは鳥取砂丘を過ぎた後、ちょっと寄り道をして境港の水木ロードへ。ここは漫画家・水木しげる氏の作品に出てくるキャラクターがストリートじゅうに絵やオブジェとして飾られている名所である。到着したのが日暮れ時だったこともあって、通りは人影もほとんどない。NHKの朝の連続ドラマで水木しげる氏とその細君の物語「ゲゲゲの女房」が放映された時に注目を浴び、一躍人気スポットとなったのだが、観光客が姿を消す時間になると、厳しい過疎の現実が露になる。ただ、地方の港町のひなびた雰囲気を味わいたいといった風情派にとっては、夕暮れの時間帯はおすすめだ。近くにある中海が薄暮の紫に染まる様もとても美しい。

 走行距離1327kmで初の給油

 さて、東京からの走行距離はこの境港で概ね800km。燃料計は8メモリ中4メモリが残っている状態であった。そこからは山陰自動車道および国道9号線で一路、関門トンネルの通る下関へと向かう。出雲を過ぎ、太田付近を走行中、道路案内板に「下関240km」の表示が。島根に入ったら下関はもう目前という感覚でいたが、日本の広さは甘くはない。

 国道9号線は大田から益田までが日本海沿いで、そこからは内陸に向かい、山間の小京都・津和野付近を経て瀬戸内に出る。この区間は山岳路なのだが、先に述べた京都北方の国道477号線とは異なり、全線2車線の高速ワインディングロードだ。

 ボルボV60の変速プログラムは「ECO+」「D」「S」の3モードがある。この区間ではもっともスポーティなSモードも試してみたが、他のモードとはフィーリングが別物で、D4エンジンがれっきとしたハイパワーディーゼルなのだということを如実に体感することができた。

 スロットルの踏み込みが深い場合、回転制限の5000rpm付近までをきっちり使い、即座に自分の望むだけパワーを出せる。ディーゼルは高回転のフィールが苦しいというイメージがあるが、D4は高回転まで引っかかり感や頭打ち感がほとんどないまま、一気呵成にタコメーターの指針が跳ね上がる。パワードライブを楽しみたいときは、迷わずSモードに入れるといいだろう。ただしSではスタートストップ機構(アイドリングストップ)が作動せず、またアイドリングの回転数も上がるため、市街地ではおすすめできない。

 関門トンネルを抜け、門司に到着した時点での走行距離は1159.2kmで、燃料計は残り2メモリ。山陰側を回ったため、瀬戸内経由に比べて走行距離はかなり多いが、まだいくらか走れるようだ。燃料警告灯が点灯したのは1235km地点、残り航続距離225kmの地点であった。福岡・熊本県境を越えた後、内陸の菊池温泉に向かった。

 菊池は渓流沿いに温泉が点在する、とても気持ちの良い保養地。その渓流のほとりに露天風呂を設置している清流荘に立ち寄り、木々の緑が湯面に映える昼間の露天風呂に入った。この日は気温が40度近くに達するほどの猛暑日だったのだが、温泉に入ると不思議と暑さを感じなくなる。十分温まって湯から出ると、涼しくすら感じられる。渓流のそばだから気温が低いのかなと思いながら体を拭くと、とたんに熱気が肌を突き刺すのだ。気化熱恐るべしである。

 温泉地を後にして、走行距離1327kmの地点で残り航続距離が100kmを切ったため、念のためすぐ近くにあった給油所で燃料を満タンにした。給油量はちょうど70リットルで、燃費は18.9km/リットルであった。

 事後、ボルボ関係者にきいたところ、燃料警告灯はオレンジ、赤の2段階になっていて、赤になったら早く給油するくらいの気持ちで大丈夫らしい。その意味では少し給油が早かったかもしれないが、Dセグメントのステーションワゴンをワインディング区間を含め、優速気味に走らせた結果としては上々の燃費と航続性能と言える。片道500km程度のツーリングなら、途中で燃料残量を気にしなければならないことはまずないだろう。ちなみにこの後鹿児島まで足を伸ばし、帰路は瀬戸内経由のルートで走ったところ、東京まで無給油でゆうゆうと走破することができた。

 日本でディーゼル車は支持されるか

 このボルボV60でのドライブであらためて感じられたことは、新世代ディーゼルは道路交通の平均速度が低い日本においても、十分に良い選択肢になり得るということだった。ただ、誰にでも手放しで勧められるというわけではない。V60の場合、昨今のディーゼルモデルの中でも騒音・振動はきわめて良好に抑制されているほうだったが、とくにアイドリング時の振動はガソリン並みとまではいかない。

 本来、そこはアイドリングストップでカバーできるはずなのだが、ボルボは日本の真夏のような高温下ではアイドリングストップしなくなることが多いので、それを嫌がるカスタマーにとっては少なからずネガティブなものに感じられるだろう。

 エンジンはもともと音がするもんなんだよと鷹揚に構えているカスタマーにとっては、新世代ディーゼルは十分以上に静かで、かつ面白く感じられることだろう。まずは速力。180~190psクラスの2リットルディーゼルは絶対性能も十分に優れているが、そればかりではない。

 ディーゼルはエンジンの熱効率の高い範囲がガソリンに比べて広く、加速後すぐにブレーキを踏んで運動エネルギーを捨てるような運転さえしなければ、少々走りを楽しんだくらいでは燃費を大きく落とさずにすむ。スロットルを踏み込むことへの心理的抵抗が小さく、ストレスフリーのドライブを楽しめるのだ。

 その燃費だが、前出の18.9km/リットルという数値は、Dセグメントモデルとして最高レベルにある。同じような走り方をしたと仮定すると、おそらくトヨタ『カムリ』、『SAI』より上であろう。燃費で後れを取るのはホンダ『アコードハイブリッド』くらいのものだ。この燃費の良さに加え、単価の安い軽油を燃料に使うこともあって、走行コストの安さは圧倒的だ。

 鹿児島から東京まで1438.8kmを無給油走破を達成した後、都内で満タンにしたときは、そのスタンドの軽油価格がかなり安かったこともあって、要した燃料代はたったの6775円であった。最大のライバルであるBMW3シリーズも実燃費はV60と同等かそれ以上のレベルにあり、新世代ディーゼルに共通の特性と言える。

 これからも複数のメーカーが投入してくるであろうディーゼルモデル。果たして日本の市場でここからどのくらい支持層を拡大することができるか、注目に値する。

 (ジャーナリスト 井元康一郎=文)