朝の通勤「風景」変えたスマホ 普及まだ低い、さらなる料金是正を

高論卓説

 総務省が携帯大手3社に出した「宿題」に対する回答が出そろった。宿題とは、2015年12月に総務相名でスマートフォンの料金負担の軽減および端末販売の適正化のための措置を講ずるよう各社に出された要請だ。

 携帯電話、特に近年急増してきたスマホはわれわれのライフスタイルにも大きな変化を及ぼしており、料金体系などの見直しの動静は、ユーザーの注目と期待を集めた。

 スマホは朝の通勤電車の「風景」も一転させた。数年前までは、混雑した車中で朝刊を縦に2つに折って折り返しながら、周りの迷惑にならないように読むのが、朝の「風景」だった。それがいつの間にか、紙の新聞を読んでいる人をあまり見かけなくなった。その代わりスマホで新聞やニュース速報などを読む人が増えている。

 総務省の家計調査によると家庭の月間消費支出総額は、04年の33万1636円から14年の31万8755円へ減少したのに対し、移動電話通信費は8217円が1万2279円となり、通信費の負担は5割も増加している。

 今回の要請はこの状況を踏まえて、大手携帯電話会社に料金プランの見直しなどを求めたものだ。

 これまでの携帯電話の料金体系は、携帯端末とサービスが一体になっているため、両者の関係が不明瞭で「透明性」に欠けていた。携帯電話番号ポータビリティー(MNP)を利用して通信事業者を頻繁に変更する利用者に対して、大幅な料金割引などが適用され、その一方で長年同じ事業者を利用しているユーザーやSIMフリーの端末を自分で購入するユーザーの利用料金も高止まりしていた。

 またデータ通信量の少ないユーザーも余分な料金を払わされているという点での「公平性」も問題視された。この「透明性」と「公平性」の確保が今回の要請の重要な課題でもある。

 各社から出された「回答」には、ユーザーの年齢構成などを考慮したため若干の差はあるが、ライトユーザーへ配慮した5000円以下となる料金プランを用意したり、2年縛りの契約には契約変更無料期間を従来の1カ月から2カ月間に延長したりするほか、スマホ端末の「実質ゼロ円」販売を撤廃し端末価格を段階的に引き上げる方針などが含まれている。

 一方で総務省の要請になかった、ヘビーユーザーの多い25歳以下の若者を対象にした「学割サービス」については、各社が同時期に発表するなど、業界の「協調的寡占」体質を示す結果にもなった。とはいえ、ユーザーの選択肢が増えたことは一歩前進といえるだろう。

 総務省が12月に出した「取り組み方針」にあるように「スマホは国民生活のインフラとして重要な役割が期待されており、普及促進が必要」なのは間違いない。諸外国に比べ、スマホの普及率が5割程度と日本はまだまだ低いのが現状だ。今回の改定だけでは、普及率を高めるには力不足だ。総務省にはスマホ普及のための取り組み継続を期待したい。

【プロフィル】森山博之

 もりやま・ひろゆき 早大卒。旭化成広報室、同社北京事務所長(2007年7月~13年3月)などを経て、14年より旭リサーチセンター、遼寧中旭智業有限公司主幹研究員、57歳。大阪府出身。