シャープ土壇場の心変わり ブランド、事業、雇用維持…鴻海に傾いたワケ

 
シャープ本社=4日、大阪市阿倍野区(柿平博文撮影)

【漂流シャープ(上)】

 1月30日、土曜日で社員もまばらな大阪市阿倍野区のシャープ本社。その一室で高橋興三社長らと台湾の鴻海精密工業の郭台銘会長が向かい合った。

 「鴻海とシャープは技術で補いあえる」

 郭会長は、2時間半の滞在で再建策を説明し、6千億円超の巨額な拠出もさることながら、「事業売却はしない」「シャープのブランドは維持する」「従業員の雇用も守る」「首脳陣の退任は求めない」と矢継ぎ早に好条件を提示した。

 確かに、鴻海は過去いったん合意したシャープへの出資を見送った経緯から不信感があった。

 それでも「100年企業のシャープをもう100年続くよう支援する」と訴える郭会長の迫力に、あるシャープの取締役は「今回は本気だ」と感じた。

 相前後して、官民ファンド、産業革新機構の谷山浩一郎執行役員も前日に機構の意思決定機関である産業革新委員会で大筋了承した再建案を高橋社長に説明した。

 シャープ本体に3千億円規模を出資し、株式の過半を取得して経営を主導。液晶を含む各事業で他社との統合などを進め、世界市場で日本メーカーの存在感を高めるのが柱。これまで革新機構案を受け入れる方向で調整していたが、シャープにとってさらなるリストラにつながりかねず、やはり経営陣に重苦しい雰囲気に包まれた。

 取締役会を翌日に控えた今月3日、高橋社長は社内で役員間の調整に追われていた。シャープの取締役13人のうち、5人の社外取締役を中心に「機構案では合理的な説明がつかないではないか」と再考を求める声が上がったためだ。

 革新機構案には、シャープ自体の再建より経営不振の東芝なども巻き込んだ業界再編に重きを置いているとの不満もあり、鴻海案に同調する役員が出始めていた。

 交渉の過程で双方の出資額はつり上がっていた。当初は液晶のみに1千億円を上限に検討していた革新機構は、最終的に3千億円の出資と設備投資用に2千億円の融資枠を設定。主要取引銀行による3500億円の債務削減をシャープに示した。一方、鴻海は買収額を6千億円超にするなど争奪戦は激しさを増した。

 高橋社長は鴻海、革新機構とも事業や雇用の維持などを了承していることを明かしたが、革新機構はこれまでの出資に際して大規模なリストラを行ってきた経緯もあり、雇用に対する不安は拭いきれない。

 主力取引行も当初、国主導による業界再編を見据えた革新機構の案がシャープの再建の実現可能性が大きいとみていた。だが、事実上の債権放棄となる追加の金融支援が求められるなど「銀行にも泣いてもらう」(志賀俊之・産業革新機構会長)内容で、再度の金融支援に踏み切ることには難色を示す声も根強かった。

 ここにも鴻海は手を打っていた。主力取引行が債務の株式化を通して所有していた2千億円分の優先株を買い取ることを提案したのだ。主力取引行も「鴻海案の方がのみやすいのが本音だ」(幹部)となった。

 4日、都内で開かれた記者会見で、高橋社長は鴻海との交渉に重点を置く考えを示した。革新機構との協議も続けるが、鴻海からの支援受け入れに前向きともとれる発言が目立った。

 「100年を超える会社のDNAを残しながら…」

 高橋社長は支援先選びで重視することを聞かれると郭会長の言葉と自らの言葉を重ねた。政府が懸念する液晶技術の流出にも「(鴻海と堺工場で共同で生産する)大型液晶の技術流出はなかった」と強調した。

 社内に不信感は完全に払拭されてはいないが、高橋社長は「技術流出がないことが、信頼関係が熟成できている1つの例だ。今は互いに尊敬し合っている」と述べ、鴻海案に傾いていることを浮き彫りにした。

 経営危機のシャープが鴻海精密工業からの買収提案を軸に交渉を進めることになった。交渉の舞台裏や背景などを探る。