「ウチの会社電気売るんだってよ」 子会社のノウハウ本に関電は太っ腹姿勢
4月から家庭も電力会社を選べる電力の小売り全面自由化を前に、関西電力系のIT企業が電力小売りビジネス解説本を出版、すぐに初版2千部を完売して増刷を繰り返すなど話題だ。親会社の関電から顧客を奪う新電力(特定規模電気事業者)の新規参入を促すことにもなるノウハウ伝受は電力販売事業のシステム開発など本業の顧客開拓の一環。関電も「電力業界全体に意義があること。どんどんやってほしい」と太っ腹な姿勢をみせている。(中島高幸)
増刷決定
解説本は「ウチの会社電気売るんだってよ」(日本電気協会新聞部発行、税別1800円)。
関電系のIT企業、関電システムソリューションズ(大阪市北区)のビジネスコンサルティング部の武川克哉部長(48)と石橋和幸さん(35)を中心に執筆を担当。実際に電力販売の事業計画策定から具体的な業務などのシステムを販売している経験からノウハウを惜しみもなく書き込んでいる。
1~3章では、電気事業の歴史や、発電した電気がどのようにして家庭に届くのかといった基礎的な内容を解説。4~13章は、電力小売り事業を始めるにあたって必要事項や、電気料金メニューの考え方、料金計算方法など具体的な内容まで体系的にまとめている。
グラフや図表、挿絵などビジュアル面も工夫しており、電力事業への新規参入者向けだが、電力小売り自由化に関心のある読者にも分りやすい一冊だ。
石橋さんは「急に電力事業を手掛ける部署に配属されるといった人でも電力小売りの自由化を理解してもらえるよう分りやすさにこだわった」と説明する。
1月21日に初版2千部で発刊したところ、間もなく完売。増刷した2千部も売り切れ、さらに3千部の増刷を決めたという。
表紙は取締役がモデル?
「持っているノウハウを出すことで、自分たちが魅力ある企業であると知ってもらいたかった」
武川部長は、解説本の出版の狙いをこう話す。
昨夏から出版の準備を進めて本業のかたわら、出張先のホテルや移動中の電車でもパソコンを開いて執筆にいそしんだ。
昨年の完成をめざしていたが、最新情報がどんどん加わっていくため、そのたびに中身も随時更新していくうちに越年してしまったという。
年末年始も作業が続いたが、テレビ番組でしばしば電力小売りの全面自由化の話題が取り上げられるなど関心が高まっている段階での解説本の出版となって好調な売り上げとなった。石橋さんは「鮮度の高いものが世に出せた」と出来映えに胸を張る。
親しみやすさにも力を入れた。本の表紙には光る電球がデザインされ、帯には頭部が薄い男性のイラストが描かれている。表紙に帯を重ねると、男性の頭が光っている絵になる。
本の章の導入部分では、この男性と女性が関西弁で漫才のようにかけあう漫画も挿入されており、やや難解な電力事業の世界に入りやすくしている。
男性のモデルになった関電システムソリューションズの上畑昌浩取締役(53)は「少し堅いイメージがある関電とは違った頭の柔らかい文化のアピールも狙いのひとつ」と説明する。
関電グループのファン増やす
関電システムソリューションズは昭和42年の設立。関電の電気料金の計算業務を担ってきたが、半世紀にわたり電力事業のITシステムを構築するなかでノウハウを蓄積してきた。
これまで新電力や電力販売への新規参入を検討している企業に対し、コンサルティングやシステム開発、インフラ構築、運用保守まで支援している。
昨年には顧客管理や料金計算など電力小売りの基幹業務といえるITシステム「NISHIKI」を発売した。グループ外の関電のライバルとなる新電力向けのシステム販売で順調に売り上げを伸ばしている。
しかし、こうした事業展開や解説本の出版が関電の顧客を奪っていく新電力に力をつけさせることになるのではと少々心配にもなってくる。
これに対し、武川部長はは「ビジネスの相手が親会社のライバルでも、関電グループのファンを増やすことにつながり、ともに電力事業を盛り上げていければいい」と説明。太っ腹な関電グループの仲間を増やし、ともに業界を盛り上げていく布石にする戦略なのだという。
関連記事