三菱重工業、事業再編リード フォークリフト合弁設立、海外活路へ攻勢
重工大手の三菱重工業が、業界各社との事業再編のキープレーヤーとなっている。数多くの事業を抱える同社が、事業の「選択と集中」を加速する中、関連するさまざまな企業を巻き込んで再編をリード。グローバルで戦える強い企業群が作り出されようとしている。
統合で奪首うかがう
「統合でシナジー(相乗)効果を創出し事業を拡大したい」。3月に発足した三菱重工フォークリフト&エンジン・ターボホールディングス(MFETHD)の前川篤社長は6日に開いた会見で、新会社への意気込みを語った。同社はフォークリフトとエンジン、自動車向け過給器の3事業を統合した新会社。傘下の子会社でフォークリフト世界シェア6位のニチユ三菱フォークリフトが、同8位のユニキャリアHDを3月に買収。これから事業展開を本格化させる。
今回の事業統合で、MFETHDはフォークリフト業界で世界シェア3位に浮上。経営統合は当面見送るが、ユニキャリアと調達や開発など一本化してコストを削減。2020年度には、営業利益ベースで首位の豊田自動織機を追い抜きたい考えだ。
MFETHDは、フォークリフト事業とエンジン・過給器事業を2本柱とし、20年度に売上高を1兆円と、15年度の7300億円から大幅に引き上げ、営業利益1000億円の達成を目指す。前川社長は「当社は(三菱重工から)独自に経営できる権限が与えられており、他社との提携も積極的に行いたい」とさらなる再編に前向きだ。
脱「自前主義」の決断
三菱重工が、こうした事業再編を加速したのは、13年に宮永俊一社長が就任してからだ。
戦前から船舶や重機、航空機などを製造する同社は「中小企業の集合体」と呼ばれるほど多くの事業を抱える。製品数も一時は700まで膨らんだ時期もあった。だが、この30年間の売上高は3兆円前後で推移し、成長できずにいた。
日立製作所との製鉄機械事業統合を00年にまとめた実績を持つ宮永氏は、トップとなって、社内の各事業に残る“自前主義”の古い体質を徹底的に排除することを決断。「国内市場が右肩下がりになる中で生き残りを図るには海外に活路を見いださざるを得なくなっている」と強調し、売却や統合も含めた事業再編を国内外で積極的に仕掛ける姿勢に転じた。
製鉄機械事業は、今ではIHIや独シーメンスとも統合し、世界トップ級の会社に変貌している。14年には仏重電大手アルストムの買収にも名乗りを上げた。また、同年には日立と火力発電事業の統合会社を設立。世界シェアでトップを目指す。
製鉄機械と火力発電、今回のMFETの3つの合弁会社は三菱重工の売上高の約半分を占める。だが、それぞれが独自の意思決定によるスピード経営を実践。さらなるM&A(企業の合併・統合)も視野に「17年度に連結売上高を5兆円に引き上げたい」(宮永社長)考えだ。
ユニキャリアHDを売却した産業革新機構の志賀俊之会長は、「日本は企業数が多すぎて再編が少ない。健康体の時こそ統合を進めるべきだ」と指摘。三菱重工の姿勢を支持する。
日本で複数の事業を抱える企業は多いが、ある投資ファンド関係者は「リスクを恐れるあまり、再編に慎重な企業が多い」と話す。
三菱重工が牽引(けんいん)する事業再編の成功事例が増えることで、他社にも再編機運が広がる可能性がある。(黄金崎元)
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