関空運営バンシの親会社のスゴイ実力…芸術的建築物に定評 世界の地下鉄や道路も
4月から関西国際空港と大阪(伊丹)空港の運営に参画する仏空港運営会社バンシ・エアポートが注目を集めている。世界25空港を運営する大手だが、親会社のバンシ・グループは世界最大級の建設会社であることは日本ではあまり知られていない。社名はルネサンス期の芸術家、レオナルド・ダビンチにちなむだけにパリの観光名所エッフェル塔改修など芸術的建築を得意とし、地下鉄や橋梁、道路などインフラ建築に実績がある。知られざるバンシ・グループの秘密に迫った。(藤原直樹)
エッフェル塔を改修
「エッフェル塔の改修は観光客の入場を受け入れながら作業を進めた。高い技術がないと成し得なかったことだ」
バンシ・グループの業務統括責任者を務めるジャン・ピエール・バロン氏は、改修を終えたエッフェル塔の前でこう胸をはった。
1889年に建設されたエッフェル塔の大規模改修はこれが3度目だった。パリを象徴する建築物のため2012年に行われた工事会社を選ぶ入札には、バンシ・グループなど計3チームが応募し、競争はし烈を極めた。
バンシ・グループが勝ち残ったのは、すでにベルサイユ宮殿やルーブル美術館など歴史的建築物の改修で実績があったことに加え、エッフェル塔の営業を続けながら改修を進める方針を打ち出したからだ。エッフェル塔の運営は観光客からの入場料で成り立っているため、この点が高く評価された。
営業しながらの工事のためクレーンを使うことができず、資材を運ぶエレベーターと足場を組んでの作業となった。中央部に巨大なネットをはるなどの観光客への安全面にも配慮した。
改修作業は昨年夏に無事完了。もともとの景観を損ねることなく、中央部分に世界最大というガラスも使用するなど、一部で改良も加えた。塔内には3D(立体)映像で塔について学べるパビリオンを新たに設置したほか、従来は2つしかなく、常に行列ができていたトイレも増設した。
パリの新名所を建設
新築においても、バンシ・グループは芸術性の高い建築を得意としている。近年の代表作は14年10月にパリ郊外にオープンしたルイ・ヴィトン財団美術館だ。
スペイン・ビルバオのグッゲンハイム美術館の設計などで知られ、高松宮殿下記念世界文化賞も受賞した著名な建築家、フランク・ゲーリー氏の設計。ゲーリー氏は非線形な破片を散りばめたようなアンバランスさが特徴の脱構築主義建築の代表的な建築家で、建築する際の難易度の高さで知られる。
バンシ・グループはこの複雑な建築を高い技術力で完成させた。ルイ・ヴィトン財団美術館はパリの新しい名所として観光客から高い人気を集めている。
さらにバンシ・グループはインフラ建設にも強みを持つ。カタールやエジプトの地下鉄建設や、19年ごろに開通予定のシンガポールの路面電車の建設も請け負っている。トルコ・イスタンブールのボスポラス海峡にかかる橋やスペイン・カディスのペパ橋を建設。このほか、道路やトンネル、ダム、発電所なども多数建設している。
バンシ・グループは17万人以上の従業員を抱え、14年は世界約100カ国で約26万のプロジェクトに関わった。売上高は5兆円規模で、建設ラッシュの続く中国の企業数社に抜かれたとはいえ、中国企業を除くといまだに世界トップを維持している。
日本進出あり得るか
世界をまたにかけて事業を展開するバンシ・グループ。傘下のバンシ・エアポートが関空の運営権を取得し、オリックスなどとの共同出資で設立した関西エアポートが4月から関空の運営を始めることから、日本への本格進出を予測する声が出ている。
空港の滑走路やターミナルの建設は、バンシ・グループが最も得意とする分野のひとつだ。実際、バンシ・エアポートが運営するフランス・ナント空港やチリ・サンチアゴ空港、カンボジアの3空港の拡張工事はバンシ・グループが担当している。
バンシ・エアポートのニコラ・ノートバール社長兼最高経営責任者(CEO)は「バンシ・グループは空港建設における専門的な技術を多数保持している。空港を運営する上で、グループ全体の総合力が武器になっている」と話す。
空港の建設・改修から運営まで総合的に担当できることを強みとしているわけだ。
バンシ・グループのバロン氏は「日本の空港ターミナルの拡張計画には当然注視していく」と話し、関空で計画される第4ターミナル建設などを機に日本に本格進出することも予想される。
世界最大級の建設会社バンシ・グループの日本での今後の動向に注視する必要がありそうだ。
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