小型旅客機ATR、短距離輸送で勝負 日本市場開拓、MRJとの共存可能

 
天草エアラインが導入した仏伊ATRの小型ターボプロップ機。イルカをデザインした機体となっている=15日午前、熊本空港

 短距離輸送の地域間を結ぶ小型旅客機を製造する仏伊ATRが日本市場の開拓に力を入れている。エンジンが異なる三菱航空機(愛知県豊山町)が開発中の「MRJ(三菱リージョナルジェット)」の方が航続距離が長く、スピードが速いが、近距離の場合、ATRのようなプロペラ機の方がコストメリットがある。地域輸送でもMRJと補完関係を築いて、日本でのビジネス拡大を狙っている。

 15日午前、青空が広がる熊本空港に、天草をイメージした水色のイルカがデザインされた1台のプロペラ機「ATR42-600」が現れた。

 この日、熊本空港から伊丹空港まで搭乗した。離陸する際に多少揺れたが、その後は安定し、低い高度を飛び、窓からの眺めも良かった。約1時間、快適なフライトを体験した。

 運航するのは天草エアライン(熊本県天草市)。保有する旅客機はこの1機だという。同社がATRのプロペラ機の運航を開始したのは今年2月。齋木育夫専務は「経済性や環境性の高さから購入を決めた」と話す。MRJのような小型ジェット機よりも、燃費性能が45%高く、価格も大幅に安いという。

 天草エアラインのような小さな航空会社は大きな投資になかなか踏み切れないのが実情だが、ATRはコストメリットの高さから導入を決めた。

 欧州エアバスグループとイタリアのフィンメカニカの合弁会社ATRは、小型プロペラ機の製造に特化。これまで世界で1500機、約100カ国、200社超の販売実績を持つ。

 国内では短距離路線の旅客機の老朽化が進み、ATRは代替など含めて、2025年までに約100機の需要があるとみている。パトリック・ド・カステルバジャック最高経営責任者(CEO)は「そのうち7割の受注を獲得したい」と意気込む。

 昨年6月には日本エアコミューター(鹿児島県霧島市)からも8機を受注。さらなる受注拡大を目指している。

 国内では、離島を中心にジェット機が離着陸できないような小さな空港も多い。まずはそのニーズに応えていく考えだ。また、名古屋-新潟間のように道路や鉄道利用では時間のかかるエリアの路線でも、各航空会社に売り込みを強めていく方針だ。

 MRJに代表されるジェットエンジンとATRのようなプロペラエンジンでは性能差は明らか。ジェットエンジンの方が最大航続距離は約3倍、スピードも約1.5倍だ。だが、カステルバジャックCEOは「長い距離はMRJで、そこから先の近距離輸送は当社で補完できる」と共存は可能との認識を示す。

 20年には東京五輪・パラリンピックが開催され、訪日客の増加も見込まれている。観光に力を入れる自治体も多い。MRJなどの小型ジェット旅客機と協調し、「日本の観光業を盛り上げたい」(カステルバジャックCEO)という。

 日本市場を開拓するためには、保守や修理などメンテナンスサービスの充実も今後、重要になる。天草エアラインや日本エアコミューターに続く受注獲得ができるのか、ATRの挑戦がこれから始まる。

 ■ATRとMRJの比較

 (MRJ70/ATR42-600)

 会社名 三菱航空機(日本)/ATR(欧州)

 サイズ(全幅×全長×全高、メートル) 29.2×33.4×10.4/24.6×22.7×7.6

 客席 76席/42席

 最大航続距離 3740キロメートル/1326キロメートル

 最高速度(ATRは巡航速度) 時速830キロメートル/時速556キロメートル

 就航時期 2019年/2012年11月