北欧式採用し質の高い特養経営 社会福祉法人隆生福祉会・藤本加代子理事長
専業主婦で培った視点を大切にして行列のできる特別養護老人ホームと保育園を経営しているのが「社会福祉法人隆生(りゅうせい)福祉会」(大阪市)だ。理事長の藤本加代子さんはもともとは専業主婦だったが、急逝した夫の隆生(たかお)さんが遺した事業を受け継いで経営者となり、経営の才能を発揮した。近年は介護の先進地、北欧のノウハウを取り入れてさらに質の高いサービスの提供を目指している。
◆夫の急逝が契機
加代子さんは大学を卒業後、関西医科大付属病院で勤務し、隆生さんと結婚した。
銀行は転勤が多い職場だったため、加代子さんの願いを聞き入れて隆生さんは一念発起。大阪大医学部を受験し、見事合格した。
再び学生となった隆生さんは、生活費を稼ごうと難関大学受験用の塾「高等進学塾」を開塾した。やがて眼科医として独立し「フジモト眼科」を開院。ともに大繁盛したという。一方、加代子さんは主婦として子育てをし、幸せな家庭生活を送っていた。
ところが、隆生さんはがんで急逝。加代子さんは悲しみのどん底に陥りながらも、眼科医院と塾の経営に追われた。専業主婦から突然、経営者になった。
当時は塾生1600人。講師は医学部などに通うエリートの学生たちで、いじわるを言われるなど当初は運営に苦労したという。
加代子さんは一人一人に事情を話して協力を要請。社員旅行をしたり、表彰制度を導入したりして徐々に意思疎通を深めた。
眼科医院では、夫の代わりに派遣された医師が診察を担当したが、次第に患者は減少。経営に苦しんだ。それでも夫の車を運転して患者を送迎するなど必死の努力を重ねた。
◆暗いイメージ覆る
徐々に事業も軌道に乗り始めた頃、加代子さんの友人が開設した特別養護老人ホームを見学に訪れた。快適な空間で、それまで特別養護老人ホームに抱いていた暗いイメージは、たちまち覆された。そして寝たきりだった祖母を懸命に介護していた母親の姿が目に浮かんだ。
「すてきな特別養護老人ホームをつくることで、介護疲れに陥る人を減らせるのでは」と考えた。
早速、夫の名前にちなんだ社会福祉法人隆生福祉会を立ち上げた。その後、大阪市や兵庫県尼崎市に特別養護老人ホームをオープンさせた。
北欧の介護手法を採用し、広々とした建物や文化的な環境、温かく、おいしい食事などを心掛けている。
最近では、日本の介護の質向上を目指し、北欧からも介護関係者を招いて職員との交流を深めている。
加代子さんは「お年寄りに『いい人生だった』と思ってもらえる最高品質のサービスを提供したい」と話している。(栗井裕美子)
≪Q&A≫
■主婦の知恵で協力獲得
--隆生さんが急逝した際の心境は
「夫は才能のある人で、これからすばらしい眼科医として世の中の役に立とうとするところで志が絶たれた。塾と眼科医院を続けることで、その悔しさを緩和できればと思った。夫にいつか『よくやった』と褒めてもらうのを楽しみに、生きていこうと決意した。最初の頃は夫の遺品を見るたびに涙が出た」
--専業主婦の知恵が経営に役立ったことは
「それは『負けて勝つ』ということ。夫も自分もリーダーシップが取れるタイプなので、結婚当初は関係がうまくいかないときもあった。自分が折れるようにしたら、けんかをしなくなった。夫の事業を受け継いだ頃、塾の講師に『塾長になるなら、この問題を解けないといけない』といわれたこともあったが、『その優秀さに期待している』などとおだてたら協力的になってくれた」
--北欧式の介護とは
「個人を大切にするのが特徴。日本では、例えば催しに参加しない人がいれば『一緒にやろう』と誘う。しかし北欧では、そっとしておく。北欧では、起きるのが遅い人がいても神経質にならず、朝食を軽くするなどして調整する。介護の交流事業で、これまでフィンランドから80人ほどを受け入れ、日本からも70人ほど派遣している。お互いのよいところを取り入れるのに国際交流は大事だ」
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【プロフィル】藤本加代子
ふじもと・かよこ 大阪薬科大を卒業後、関西医科大付属病院で勤務。医療法人敬生会フジモト眼科理事長などを経て、2000年3月、社会福祉法人隆生福祉会理事長に就任。関西経済同友会幹事。66歳。大阪市出身。
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【法人概要】社会福祉法人隆生福祉会
▽本部=大阪市東住吉区湯里1-3-22
▽設立=2000年3月
▽従業員=470人
▽事業内容=特別養護老人ホーム、保育園などの運営
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