都市部の人材、地方で採用 中小企業など転職狙い工夫
業績向上を狙う地方の中小企業が、東京や大阪といった都市部の大企業で管理職などのキャリアのある人材の採用に力を入れている。仕事内容や給与面だけでなく、家族の同意が転職の決め手になる例が多い。地方企業は暮らしやすさの説明に力を入れるなど工夫を凝らす。政府が「地方創生」戦略の一環として地方への人材移動促進を掲げていることも追い風だ。
◆家族の理解
「私と一緒に売り上げを業界トップにする夢を実現しましょう」
3月下旬、「広島県プロフェッショナル人材戦略拠点」が東京・渋谷で開催した中途採用希望者対象の合同企業説明会。同県三原市で大豆製品の製造販売を手掛ける、やまみの山名清社長は、約50人の参加者を前に熱く語った。
給与格差が転職のネックになることもあり、山名社長は「前職並みになるよう考慮したい」と話す。
転職サイト運営のビズリーチ(東京)が2015年5月に実施した、同社に登録する首都圏で働く会社員1706人(平均年収940万円)を対象にした調査では、仕事のやりがいがあれば「地方への転職を前向きに検討する」「どちらかと言えば前向きに検討する」と答えた人は計約70%。一方、地方への転職を検討しない人が懸念する理由は「家族の賛成が得られない」が約35%と最も多かった。
説明会に参加した広島県出身の30代男性は「いずれは故郷で働きたいが、子供が生まれたばかりで今は妻を説得するのが難しい」と話す。
ビズリーチの多田洋祐取締役は「中途採用に力を入れる企業は、家族の理解を得られやすいよう、内定までに暮らしやすさや教育環境を説明している。街の良さをPRする自治体もある」と強調する。
◆バスツアー
教育や医療・福祉事業などを展開するNSGグループ(新潟市)。パートなどを含めた従業員数約1万人の同社は、10年から計約90人を中途採用した。入社した後の生活面でのギャップを少しでも減らそうと、14年7月からは東京での1次面接通過者を対象に、新潟市での説明会に加え、市内を見学するバスツアーを企画している。
東京の投資銀行などで勤務し、今年3月に同社に転職した40代男性は「新潟で生活する自分の姿をイメージでき、自然が豊かで子育ての環境としては悪くないことが分かった」と話す。近く、東京に残した妻と子供2人も新潟に転居する予定という。
子供が独立した後、地方に移住するケースもある。15年12月に横浜市から実家のある北九州市に移り、不動産仲介会社に転職した山口進一郎さん(56)は、前の職場で役職定年となり、帰郷を決断した。
山口さんは「親のことが気掛かりだった。新たな仕事にも挑戦し、夢のある生き方を実現したかった」と振り返る。息子3人は就職などで家を離れ、今は妻と、横浜では飼えなかった犬とともに暮らす。「故郷に帰ると自分が成長したことに気付く。マイホームの購入を検討する顧客に人生の先輩としてアドバイスすることができ、仕事のやりがいは十分」と満足そうだ。
政府は地方創生の一環として15年度、40~60代の地方転職者を対象に最長半年間の住居費などを支援する制度を実施。人材サービスのパソナなどが受託運営した。
関連記事