日産「新ビッグ3」追撃、試される“ゴーン流” 合理化で三菱自の魅力そぐ恐れも
【1000万台の野望】(下)多様なニーズ対応 合理化で魅力喪失も
昨年11月18日、タイ中部の港湾都市レムチャバン。三菱自動車の相川哲郎社長は同社の現地工場で開かれた累計生産400万台達成の記念式典に出席し、「引き続きタイの自動車産業と一緒に発展していく所存です」と、満面の笑みであいさつした。
好機だった不正問題
同工場はタイ向けに加え、東南アジアや中東など世界約90カ国に輸出する三菱自の主要生産拠点だ。ピックアップトラック「トライトン」やスポーツ用多目的車(SUV)「パジェロスポーツ」など利幅の大きい海外向けの主力車種を生産し、三菱自が2016年3月期決算で過去最高の営業利益を稼ぎ出す原動力となった。
「東南アジアで素晴らしい仕事をしている」。日産自動車のカルロス・ゴーン社長は、三菱自との資本業務提携合意を発表した12日の記者会見で、こう持ち上げてみせた。日産が燃費データ不正問題に揺れる三菱自への出資を電光石火で決めたのは、11年に合弁会社を設立しスタートさせた軽自動車を企画開発・生産する協業の存続という“現状維持”だけではない。「日産が弱い東南アジアの事業で恩恵がある」(ゴーン社長)と判断したからだ。
日産は世界最大の中国市場で日系メーカー首位の座を誇るが、成長市場である東南アジアではライバルに後れを取っている。日産の世界販売全体に占める中国を除いたアジアの割合は1割にも満たない。
世界販売4位に甘んじる日産と仏ルノー連合が、「新ビッグ3」と呼ばれるトヨタ自動車、独フォルクスワーゲン(VW)グループ、米ゼネラル・モーターズ(GM)を追撃する上で、東南アジアでの販売拡大が課題だった。
これに対し、三菱自は東南アジアでの販売台数が世界販売全体の約2割を占める。タイ以外にも、インドネシアで生産能力年16万台の工場を来年4月に稼働させる予定。フィリピンでも昨年1月に工場移転で生産能力を増強している。
日産にとって三菱自が持つアジアの生産拠点は、世界販売の空白を穴埋めし補完できるまさに垂涎(すいぜん)の的であり、不正問題はむしろ千載一遇のチャンスだった。
試されるゴーン流
今回の資本業務提携についてナカニシ自動車産業リサーチの中西孝樹代表は、「日産・ルノー連合に三菱自が加わることで、規模拡大による費用低減効果が期待できる」としながらも「三菱自の持ち味をそぐ恐れがある」と課題を指摘する。
東南アジアでは国によって消費者の好みが異なり、人気車種に大きな違いがある。三菱自はこうした現地の細かいニーズに対応した車種を展開しシェアを獲得している。かつて日産の経営再建で“コストカッター”の異名をとったゴーン社長が、同じやり方で合理化や共通化の大なたを振るえば、こうした三菱自の個性や魅力が失われかねない。
「両社にとって(相互に恩恵を受ける)ウィンウィンの提携だ」。ゴーン社長が会見で強調した通りの相乗効果を発揮できるのか。“ゴーン流”が試される。
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この連載は、今井裕治、会田聡が担当しました。
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