東レ 半導体CNTの可能性に挑む

21世紀を拓く 知の創造者たち
村瀬清一郎さん

 ■世界を変える新しいデバイスに

 「新しい価値の創造を通じて社会に貢献する」という企業理念のもと、研究・技術開発の成果をベースとした事業化を推進している東レ。有機合成化学、高分子化学、バイオテクノロジー、ナノテクノロジーをコア技術に、繊維やプラスチック・ケミカル、情報通信材料・機器、炭素繊維複合材料、医薬・医療材、水処理・環境事業などを26カ国・地域で展開している。3月には塗布型半導体カーボンナノチューブ(CNT)で世界最高レベルの移動速度を達成、製品への応用に大きな期待がかけられている。そこで研究者4人にそのポイントや今後の方向性などを聞いた。

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 □村瀬清一郎さん 世界初の製品化を

 ◇むらせ・せいいちろう 電子情報材料研究所主任研究員 工学博士

 □清水浩二さん 塗布型のメリット

 ◇しみず・ひろじ 電子情報材料研究所研究員

 □磯貝和生さん 世界を豊かにする

 ◇いそがい・かずき 電子情報材料研究所

 □脇田潤史さん 社会が変わる姿を

 ◇わきた・じゅんじ 研究・開発企画部CR企画室 工学博士

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 --担当している業務は何ですか

 村瀬 研究リーダーとしてプロジェクトを進めていく役割を担っています。東レの強みをどう生かすかを考え、足りない部分は社外からの技術導入も進めています。

 清水 半導体CNTを用いた素子の製作や評価技術を担当しています。半導体CNTが塗布できるという大きなメリットを生かすため、均一な状態で塗布できるようなプロセスの構築と塗布方法の選定を行いました。

 磯貝 塗布する半導体CNTインクの製作です。CNTの分散工程で、CNT同士がくっついて束になるのを防ぐ独自ポリマーの設計と合成を担当しました。

 脇田 私は、半導体CNT以外の素材で、電気をためる電池の役割を果たすキャパシタや導電材料の研究を担当しています。これに加え、「CR企画室」としての業務も担当しています。東レでは、事業部直課の研究とは別に、本社に賦課する本社研究(CR)があります。このCRテーマの創出・推進を通じて新規大型事業の種を生み、苗に育てるのが、CR企画室です。私は、この半導体CNTを用いたビジネスディベロップメントを推進しています。

 --どのようなところに仕事のやりがいを感じますか

 村瀬 半導体CNTは新しい塗布型の半導体材料なので、これが実用化されると社会変革に貢献することができます。現在の仕事が直接、社会を変える力になるというところがやりがいの一番大きいところです。軽くて柔らかい基板の上に、半導体を作り込むことができれば、誰でもいつでも、自分が認識しない間に電子製品とかかわっているという社会の実現が期待できます。例えば、高齢者の見守りも本人が意識しない中で見守られているなどです。

 清水 半導体CNTはさまざまな問題の解決に有効で、実用化されると世界を変える新しいデバイスが日本から生み出されることになります。そういう研究に携われることは魅力的です。

 磯貝 半導体CNTは他の材料にない高い性能を持っており、性能を十分に生かせば社会を変える材料が作れると思います。その材料によって社会を豊かにしていくということにやりがいを感じます。

 脇田 具体的な事業化を見据えた研究ができることは企業研究の特徴であり、大きなやりがいです。私は、半導体CNT以外にもさまざまな材料や技術について調査・検討する立場でもあるので、今まで知らなかった研究にも触れられるという点で研究者としての好奇心がかきたてられます。

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 --これまでの業務経験が今回の開発に生かされている部分はありますか

 村瀬 私は入社後、有機EL(エレクトロルミネッセンス)材料の研究を担当しました。その時に有機半導体のメリットとデメリットを学んだことは生かされています。また、他にもいくつか別のテーマを手掛けており、製品化を実現したものもあるので、今回も製品化に向けての知見は生かしていけると思います。

 清水 以前、シリコン系半導体のプロセス開発に携わっていたことがあります。性能としては塗布型半導体CNTとは大きく違いますが、プロセスのどこがハードルになるかなどはフィードバックできますね。

 磯貝 私は入社以来、半導体CNTを担当しています。ただ、学生時代からポリマーを勉強していたので、どういう分子構造であれば高い特性が出るかなどについては知識として生かせています。

 脇田 以前は耐熱性ポリマーの研究を担当していました。材料を作るにあたってどのような実験や測定が必要かという“勘どころ”は共通であり、経験が役立っています。

 --今回の開発で苦労した点は

 村瀬 今回の研究に10年近く携わっていますが、最初の頃は高品質CNTが安定的に確保できず、苦労の連続でした。

 清水 素子化技術では、同じ条件下で製作しても均一の性能が確保できないことがあります。その場合、素子の製作プロセスをもう一度見直すのですが、工程が多いので問題の特定に時間がかかり大変でした。

 磯貝 CNTがうまく分散ができない時があり、どういうメカニズムで分散できないかを解析するのが難しかったですね。一方で、試行錯誤する中で予想外の結果が得られ、楽しさを感じる場面もありました。

 脇田 半導体CNT以外にも周辺材料が必要ですが、それらの材料開発はゼロからのスタートでしたので大変でした。

 --今後の目標は

 村瀬 世界初の塗布型半導体を製品化することです。ナノカーボンにはCNT以外に、シート状のグラフェンと球状のフラーレンがありますが、それぞれ発見した人はノーベル賞を受賞しています。CNTは日本人が発見しましたが、ノーベル賞を受賞していません。製品化して、その製品が広く社会貢献していけば、先人の方々の受賞につながるかもしれないので、粘り強い研究でそれを後押ししたいです。

 清水 これまで、研究初期から開発、製品化まで一貫して携わったことがまだありません。今回のプロジェクトはその経験ができる良い機会でもあり、自分が開発した製品を世の中に提供していくことには非常にやりがいを感じています

 磯貝 入社以来、CNTの研究を担当して愛着がありますので、もっとCNTの本質的な特性を引き出していきたいと思っています。

 脇田 私も自分が手掛けた製品によって社会が変わっていく姿を見てみたいです。

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【会社概要】

 ◇本社=東京都中央区日本橋室町2-1-1 日本橋三井タワー

 ◇社長=日覺昭廣氏 ◇設立=1926年(大正15年)1月

 ◇資本金=1478億7303万円(2016年3月末現在)

 ◇従業員数=4万5839人(同)

 ◇事業内容=繊維事業、プラスチック・ケミカル事業、情報通信材料・機器事業、炭素繊維複合材料事業、環境・エンジニアリング事業、ライフサイエンスほか

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 フジサンケイビジネスアイは「独創性を拓く 先端技術大賞表彰制度」を設けております。このシリーズは2015年の運営に協力いただきました協賛企業の研究開発活動を紹介するものです。