ワイモバイル、ヤフーと連携しスマホ販売急増 割安プランで攻勢
ケータイWatchソフトバンク傘下となってはや2年、この春にはiPhone(アイフォーン)5sを売り出し、さらには1年間1000円を割り引いて月額1980円というプランを提供するなど、次々と話題を振りまくのがY!mobile(ワイモバイル)だ。
ソフトバンクでワイモバイルの事業を牽引(けんいん)するキーパーソン、ワイモバイル事業推進本部の寺尾洋幸本部長は、今後、ヤフーとの連携を強めていくフェーズと意気込む。
ワンキュッパ前面に
2014年にヤフーとの提携、そして15年にソフトバンクのモバイル事業として合併し、今はソフトバンクのブランドの一つとしてサービスを提供するワイモバイル。
かつてはITリテラシーの高い男性ユーザーが多かったが、14年7月に打ち出した料金プランでは「スマホプランS/M/L」の3種類に絞った。その結果、まずは50~60代の男性が増加。その後は徐々に女性ユーザーも増加。かつて男性の方が多かったワイモバイルユーザーは、男女比で見ると五分五分にまできたという。
スマートフォンの販売数を見ると16年3月は前年比2.6倍、4月には2.8倍も増えた。この春商戦、ワイモバイルはぐっと手応えを感じる結果を残した。
16年の春商戦に向けて、ワイモバイルが仕掛けたのは「1980(ワンキュッパ)」だ。2~5月、学割として提供されたキャンペーンで、1年間、利用料が1000円割引になり、例えばスマホプランSであれば月額1980円で利用できる。6月からは学生に限らず、適用可能なキャンペーンとして提供されている。
割安を印象付けるキャンペーンを実施した背景とは何か。寺尾氏は帰省時、同級生に会うとフィーチャーフォンのユーザーがまだまだ多いなかで、ワイモバイルの存在感がないことを改めて思い知らされたのだという。そうした自身の経験のみならず、市場調査を実施しても、認知度は「4人に1人、ワイモバイルの名前を知っている程度」(寺尾氏)だった。かつてのイー・モバイル、ウィルコムからワイモバイルへと生まれ変わって2年、いろいろとやってみたがまだまだだったと振り返る。
そこで強いインパクトを打ち出すために実施したのがワンキュッパ割。とはいえ、企業として持ち出しを増やしたのではない。これまでもMNP転入で1万円キャッシュバックなどを実施しており、その金額感は同等レベルにしつつ、「(1度の還元ではなく1カ月当たりと)横に倒しただけ」(寺尾氏)と見せ方を変えただけだという。
16年3月、ワイモバイルはアイフォーン5sの販売を開始した。13年の機種をあえて投入してきたことに、競合他社からは驚きの声も挙がった。
これに寺尾氏は「もともと出すか出さないか、という話はいろいろあったが、扱えるようになったので扱っただけ」と答える。とはいえ「2年も前のアイフォーンを出して(ユーザーがどう反応するか)正直自信はなかった」(寺尾氏)という。
寺尾氏が、アイフォーン5sの投入で唯一、獲得できるであろうと目算をつけていたのが“新高校生”となる層。アイフォーンを一つのブランドとして支持する10代と、懐具合をにらみつつ子供向けのスマートフォンを検討する保護者。そんな両者の綱引きに、割安な価格で提供する料金プランとアイフォーン5sはぴったりハマるという読みだ。これが当たり、この春、ワイモバイルは手薄だった学生ユーザーを数多く獲得した。これも前年より大きくスマートフォン販売数を伸ばした3~4月の実績に結びついた。
地道に仕組み作り
料金プランで訴求する一方、ワイモバイルが地道に仕組み作りを整えてきたのがヤフーのサービスとの連携だ。
寺尾氏「2年前、ヤフーと一緒にやっていく方針としたが、実際に始めてみると意外と大変だった。ログイン一つとっても難しい。手順など、分かっている人にとっては簡単だが、そうではない方にとってはちょっとでも分からないことがあれば先に進んでいただけない。この2年、連携の仕掛けをブラッシュアップし続けてきた」
そのかいあって、現在、ワイモバイルのスマートフォンユーザーのうち、今や8割がヤフーIDでログイン。さらにそこで生きてくるのが、ヤフーショッピング。ヤフーでは13年10月に出店料などを無料化しており、ヤフーショッピングは店舗数や販売アイテム数が増加。手数料の関係で、他よりも安価な価格になることもあると寺尾氏は説明しており、価格でワイモバイルを知ったユーザーにショッピングまで体験してもらえれば、という狙いがあるという。
14年の新プラン提供以降、同社のスマートフォンユーザーのうち約半数は「ワイモバイルが初めてのスマートフォン」だった。価格をきっかけに初めてスマートフォンに触れつつ、ヤフーのサービスも活用するようになれば、さらに次のステージを目指せるというのが寺尾氏の描く未来の一つだ。
さまざまな料金プランでにぎわいを見せる仮想移動体通信事業者(MVNO)市場では、最近、イオンや楽天が積極的に展開している。そうした事業者が存在するなか、ワイモバイルの強みの一つは全国に1000店舗あるワイモバイルショップになると寺尾氏。
店舗での対面サポート対応は、大手キャリアにも共通する部分だが、その大手キャリアとは価格面で差をつける。そして他のMVNOとは店舗の存在で違いを見せつける格好だ。
ただ寺尾氏は、それでも価格だけでは大手にやがてキャッチアップされ、競争に生き残れないと指摘する。
ライバルとしては意識しないが、FREETELや楽天といった企業はこれまでにないアイデアを提案してきて勉強になる、と語る同氏は「同じところにとどまっていると、必ず大手が進出してくる。他社を意識するよりも、常に新しいネタを探している。24時間365日ずっとそのことばかり。今年の正月の初夢は何か新しいものができた! というものでしたよ。夢だから何もないんだけど」と笑う。
これはDDIポケット、ウィルコムと長くモバイル市場に関わってきた同氏だからこその視点。15年の暮れにかけて総務省で議論され、その後、実質0円廃止の提言などにつながったタスクフォースの影響についても「楽しんでますよ」と力強い。
寺尾氏「結局、知恵を使えということ。たまたま僕らは今、安いポジションにいるけど、(多額のキャッシュバックなど)お金はとても強力だから僕らの思考が止まっていたのではないか。むしろガッチガチに縛られて、いろんな制約があった方が人は考える。新しいビジネスを作るチャンスをいただけたのだと前向きに捉えている」
店頭スペース拡大
初めてスマートフォンに触れるユーザーを取り込むワイモバイルは今春、家電量販店の店頭で販売スペースを急拡大。SIMロックフリーのスマートフォンとセットで購入すると割引が適用されるなど“格安スマホ”らしさを前面に打ち出した。
これに寺尾氏は、料金プランや端末の販売など、ワイモバイルはSIMフリースマホの取り扱いを前提に設計している、と前置きしつつも、現在はまだITリテラシーの高いユーザー層を主なターゲットとした取り組みだと説明。例えばAPNの設定などは、ある程度知識が要求されることから、幅広いユーザー層に向けたアピールというよりも、自分自身で課題をクリアできる力を持つユーザー層向けとする。
寺尾氏は「例えば私自身、家族の回線をシェアプランで利用しており、PHS数回線の料金を合わせて、月額1万円もかかっていない。子供向けにSIMフリー版のアイフォーンを購入したため初期費用はかかったが、ワイモバイルのプランをきちんと使いこなしていただければ、毎月の支払いはぐっと安くできる」と語る。
主力はあくまでワイモバイルブランドの端末、SIMフリースマホを手掛けるメーカーは敵でも味方でもない。リテラシーの高い人とそうではない人の間で二極化が進んでおり、ユーザーからサポートへの問い合わせで一番多いのは「使い方」。機種数が増えるとサポートにかかるコストも難しくなると寺尾氏はSIMフリー端末との微妙な距離感を表現する。
それではワイモバイルの独自機種についてはどうなるのか、という問いに「なぜこんなことをするのか、という意外なところでいきたい。乞うご期待です」と話した。
今後について寺尾氏は「今の基盤を固めたい」と意気込む。新たなユーザーを獲得し、なおかつヤフーショッピングなどヤフーのサービスとの連携を強めていくことで、新しい体験をするユーザーの増加をもくろむ。その一方で、新しい仕掛けも仕込み中とのこと。新たな切り口の売り方なども模索していくという。(インプレスウオッチ)
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