サイバー防御 AIで進む自動化 IoTで標的多様化 人力では限界

 

 人工知能(AI)などを活用し、コンピューターがサイバー攻撃を自動で防ぐ技術の開発が進んでいる。攻撃自体が増えているのに加え、あらゆる機器をネットでつなぐ「モノのインターネット(IoT)」が本格普及すれば、攻撃対象が多様化し、人手に頼るやり方では限界を迎えるとの危機感が背景にある。

 米ラスベガスで今夏、世界初となる異例のハッキング競技会が開かれた。

 スーパーコンピューター同士が全自動で戦う「サイバー・グランド・チャレンジ(CGC)」。米国防総省の国防高等研究計画局(DARPA)が主催し、約60億円の巨費を投じた一大プロジェクトだ。

 CGCは、情報セキュリティーの技術を競うハッカー競技会を元に考案された。自分のチームのシステムを守りつつ、相手に攻撃を仕掛ける。異なるのは、人間が手を触れることは許されず、コンピューターが自律的に判断して動くことだ。

 決勝には米国の研究機関や大学など7チームが出場。不正アクセスに利用されるプログラムの欠陥を自動で検出し、修正することによって攻撃を防いだ。優勝したマシンはAI技術も活用しており「10分間で12個程度の欠陥を見つける能力」(チーム関係者)を誇る。人間を上回る脅威のスピードという。

 人間がつくるソフトには必ずといっていいほど欠陥が存在し、サイバー犯罪者からの攻撃を受けるリスクを抱える。現在は技術者が欠陥の有無をチェックしているが、セキュリティー業界内からは「今や何にでもITが使われる。システムも複雑化しており、人力で対応するのには限界がある」(アナリスト)との声が漏れる。

 デロイトトーマツサイバーセキュリティ先端研究所の岩井博樹主任研究員は「以前はサーバーやネットワーク機器がよく狙われたが、ウェブカメラなどのIoT機器にも攻撃対象が広がっている」と話す。攻撃側でも自動化が進んでいるとし、対抗する必要性を訴える。

 まるでSFの世界のようだが、自動運転車も約10年前にDARPAが支援したのをきっかけに急速に開発が進んだ。今後、セキュリティー分野でも各国で開発競争が活発化するのは確実で、日本政府もサイバー攻撃対策にAIを活用する方針を掲げる。

 国立情報学研究所の高倉弘喜教授(情報学)は「AIは膨大なデータから、短時間で最も正解に近いものを探すことを得意としている。IoT機器はパソコンなどと比べてプログラムが簡単なので、2~3年後には実用化されるだろう」と予測していた。