経営不振の東芝 資本増強多難なシナリオ

 
記者会見でさえない表情を見せる東芝の綱川智社長=27日午後、東京都港区の本社

 東芝の資本増強策は待ったなしだ。米原発事業をめぐる巨額の損失計上で債務超過に陥る恐れも出てきた。資本増強策には「増資」「事業切り売り」「金融機関の支援」という3つのシナリオが浮上している。しかし、度重なる損失の発覚で東芝への信頼は地に落ちている。資金調達の実現にはさまざまなハードルが立ちふさがっている。

 東芝は財務力を示す株主資本が平成27年3月末に1兆円以上あったが、不正会計問題で損失を計上し、9月末時点で3632億円に目減りした。原発事業での新たな損失発覚で、すべての資産を売っても借金を返せない債務超過の懸念も市場で高まった。債務超過になれば、東京証券取引所の上場廃止基準に抵触し、再建は一段と厳しくなる。

 綱川智社長は「資本増強を検討する」と財務改善を急ぐ考えを示す。

 資本増強策でまず想定されるのが増資だ。だが、東証は東芝を管理体制に問題があることを投資家に注意喚起する「特設注意市場銘柄」に指定しており、株式を発行して不特定多数の投資家に売る公募増資のような資金調達は困難だ。取引先企業に株式を引き受けてもらう第三者割当増資も、原発事業のリスクが意識される中で、「企業が手を挙げるのはかなり難しい」(SMBC日興証券の嶋田幸彦氏)とみられる。

 一方、事業の切り売りで資金を捻出する案もある。ただ、東芝は不正会計発覚後、エアコンなどの白物家電子会社を中国の美的集団に、医療機器子会社をキヤノンに売却している。売却できる大きな事業が少なくなる中、主力の半導体事業を分社化し、上場して資金を得る案も浮上している。だが、業績を牽引(けんいん)する「虎の子の事業」(関係者)を切り出せば、東芝本体の稼ぐ力が低下してしまうジレンマがある。海外の半導体メーカーに株式を買い占められる恐れも生じかねない。

 こうした状況を踏まえると、最もあり得るシナリオは金融支援だろう。東芝は既に主力取引銀行のみずほ、三井住友両銀行などと具体的な協議に入った。

 選択肢に挙がるのは、借金の一部を株式と交換する「債務の株式化」のほか、議決権がない代わりに配当を優先的に受けられる「優先株」を銀行に引き受けてもらう案だ。ただ、東芝の経営の先行きが見通せない中、いずれも「リスクを背負うことになるので銀行にとっては重い判断」(メガバンク関係者)。東芝は銀行団の理解を得るため、一段のリストラを迫られる可能性がある。

 28日には格付投資情報センター(R&I)が東芝の発行体格付けを2段階引き下げ、社債発行も当面困難になった。また、格下げを受けて銀行からの借り入れ条件である「財務制限条項」に抵触する恐れが出てきた。条項に抵触すれば、金利引き上げや債務返済を求められる恐れもある。東芝は、銀行主導の再建策を受け入れざるを得なくなるかもしれない。(万福博之、米沢文)