J.フロントリテイリング社長・山本良一さん(65)

2017成長への展望

 ■モノの品質に加え空間や体験で魅了

 --訪日外国人(インバウンド)向け売り上げの動向は

 「昨年秋以降の円安傾向を受けて、大丸松坂屋百貨店の12月のインバウンドの売上高は前年同月比で6.6%のプラスだった。化粧品はもともと好調だったが、さらに売れている。高級ブランドなどの高額品も上向いている。いわゆる“爆買い”ではなく、中国や台湾、韓国を中心にインバウンドの10%程度がリピーターだ。百貨店にとっては国内だけでなく、こうした国・地域にも商圏が広がってきたと感じている」

 --中間層では節約志向が強まっている

 「婦人衣料の売り上げが回復していない。ショッピングセンターやファストファッション、ネット通販との販売競争といった要因もあるが、消費者の価値観の変化が大きい。昔は服で自己表現していた。しかし、今は単にモノではなく、“体験”することに重点を置いている人が多い。例えば池袋パルコでは、大ヒット映画『君の名は。』と連携したカフェを期間限定でオープンし、大人気となっている。店で写真を撮り会員制交流サイト(SNS)に投稿することで満足感を得るなど、消費の形が変わってきた」

 --消費の変化にどう対応するのか

 「4月に松坂屋銀座店の跡地にオープンする複合商業施設『GINZA SIX(ギンザシックス)』は、従来型の食品や婦人服売り場があるといった百貨店の概念をなくした。モノの品質に加えて、体験や空間的な魅力をお客さまに提供する。ギンザシックスは今後目指していく百貨店の指標になると考えている」

 「時間はかかるが、百貨店を核に地域の魅力を高めることで集客につなげたい。百貨店だけで人を集めるのは難しい。今年秋にオープン予定の松坂屋上野店南館にはシネマコンプレックス(複合映画館)『TOHOシネマズ』やオフィスフロアも入る。上野という街に人を集め、情報を発信していきたい」

 --人気キャラクターを扱う「ポケモンセンター」や家電量販店「ヨドバシカメラ」など積極的にテナントを誘致してきた

 「テナント誘致そのものが目的ではない。街に必要な店が何かを考えてテナントに入ってもらっている。ポケモンセンターは、子供が求めていることを考えて大丸札幌店などにオープンした。百貨店の既成概念にとらわれていれば、今までと同じようなおもちゃ屋が入っていたかもしれない。今後も求められれば専門店に入ってもらう」

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【プロフィル】山本良一

 やまもと・りょういち 明大商卒。1973年大丸入社。2003年社長。J.フロントリテイリング取締役、大丸松坂屋百貨店社長などを経て、13年4月から現職。神奈川県出身。