JR九州株、自治体が取得 路線維持へ合理化を牽制
2016年10月に上場したJR九州の株式を沿線自治体が取得する動きが広がっている。過疎地を中心に全国各地でローカル路線の廃止が相次ぐ警戒感から、株主として合理化策を牽制(けんせい)し、路線維持につなげるのが狙い。ただ投資家から利益増大を目指すよう圧力がかかることも予想され、経営陣は今後、難しい判断を求められそうだ。
◆上場で廃線現実味
「路線維持に向けJRへの協力姿勢を示す意味もあるが、会社の成長力や公益性の高さなどを評価して株式取得した」
上場直後に3800株を取得した宮崎県日南市の担当者はこう強調した。市内を縦断する日南線は1キロ当たりの1日平均輸送人員を示す「輸送密度」が13年度時点で797人と、JR九州の22路線で3番目に少ない。以前から廃線のうわさがくすぶり、株式取得は路線維持への効果を狙うのが最大の目的とみられる。日南線沿線の宮崎県串間市もJR九州株の取得費用として16年12月開催の議会に補正予算として1000万円を計上。市の担当者は「上場で廃線の現実味が増した。少しでも早く先手を打つべきだと考えた」と打ち明ける。
JR各社は地方での人口減をにらみ鉄道事業の収支改善に軸足を移す。JR西日本は16年9月、島根県江津市と広島県三次市を結ぶ三江線(約108キロ)の廃止を決定。JR北海道は16年11月、輸送密度を基に、全路線の約半分に当たる計1200キロ、10路線13区間を「維持困難」と発表した。今後、バスへの転換や運賃値上げなどを沿線自治体と協議する構えだ。
30年前の国鉄分割民営化の際には、輸送密度4000人未満の区間は鉄道輸送に不向きとされた。JR九州では13年度時点で半数の路線で4000人を割り込む状態で、採算が厳しい路線は今後も増える可能性がある。
17年度予算に1000万円の株式取得費を計上予定の宮崎県えびの市は「取得できる株数では、影響力が小さいだろう。それでも住民の生活に欠かせない吉都線を死守したい」と明かす。同県高原町も17年度予算に計上予定だ。検討中の自治体からも「JR北海道の動きを見れば、人ごとではない」(鹿児島県志布志市)といった声が上がる。
◆活性化へ協調重要
JR九州の青柳俊彦社長は上場後の記者会見で、「廃線を検討している路線はない。維持する努力を続ける」と強調。しかし17年3月のダイヤ改正に合わせ大分-宮崎空港の特急列車の一部で車掌を乗せない「ワンマン運転」の導入方針を示し、合理化に着手している。
JR九州は「事業内容を理解してもらえる方に株主になってもらいたい」(広報)との立場だ。鉄道ジャーナリストの梅原淳氏は「株主として声を上げることは意義がある」と評価。その上で「株式取得を機にJR九州と沿線自治体の話し合いの場が生まれれば、路線維持への大きな前進となる」と述べ、沿線活性化に向けたJRと自治体との協調が重要だと指摘した。
関連記事