東芝が隠す「不適切なプレッシャー」とは? 米原発子会社による不正の疑いで内部通報

 
会見する東芝の綱川智社長(右)と佐藤良二監査委員会委員長=14日午後、東京都港区(古厩正樹撮影)

 東芝が、14日に予定していた決算発表を1カ月延期した。巨額損失の原因となった米原発子会社、ウェスチングハウス・エレクトリック(WH)による買収をめぐる不正の疑いが発覚したためで、内部統制の不備が改めて露呈した形だ。

 「従業員から、経営者による不適切なプレッシャーの存在を懸念する指摘があった」

 東芝の佐藤良二監査委員長は同日の記者会見で、決算発表を延期した理由をこう説明した。

 同社によると、平成27年末に行われたWHによる原発建設会社、米CB&Iストーン・アンド・ウェブスター(S&W)の買収について、「取得価格の配分手続きにおける内部統制の不備を示唆する内部通報があった」という。内部通報の主はWHの従業員で、同社のホセ・エメテリオ・グティエレス社長宛てに寄せられた。

 これを受け東芝は、外部の法律事務所に調査を依頼。決算発表を予定していた14日までに調査が終わらないことから、13日午後に発表延期を決め、さらに調査を進めることにした。監査法人も、決算発表には内部通報に対する調査の完了が必要とした。

 記者会見では東芝側からそれ以上の説明はなされなかった。報道陣から「不適切なプレッシャー」の意味を問う質問が相次いだが、佐藤委員長は「答えられない」の一点張り。プレッシャーを与えたとされる人物について「WH会長のダニー・ロデリック氏では」とする問いにも、「調査中」と明言を避けた。

 東芝が巨額損失を出すことになったのは、WHがS&Wを買収したためだ。WHは、20年にS&Wなどと米国で原発4基を受注したが、米政府の安全規制強化で人件費などのコストが膨らみ、電力会社やS&Wの親会社である米CB&Iと負担をめぐりトラブルになった。 

 そこでWHは、係争相手からS&Wを買収し、トラブルを解消してこれ以上の損失拡大を食い止めようとした。ところが、コストはさらに増加。S&Wの価値は買収時の想定を大幅に下回り、巨額の損失が避けられなくなった。

 佐藤委員長は「現時点では(不正が)財務諸表に修正を加える事項は認識していない」と語るが、「不適切なプレッシャー」が買収前と買収後のS&Wの査定額の違いに影響したとすれば、7千億円強と見積もっている損失額にも影響する可能性がある。

 東芝経営陣のWHに対するガバナンス(統治)の不備も問われる。東芝は事業ごとの「縦割り」意識が強いといわれてきた。原発事業は、原発畑を一貫して歩んだ志賀重範会長と、ロデリックWH会長の2人に任せ切りとなっていた。

 綱川智社長は昨年6月の就任時に「企業体質の変革」を約束したが、東芝と取引のある大手金融機関の融資担当者は「内部統制の改革はしょせん飾りだったんだな」と吐き捨てた。(井田通人)