「賃上げ要素ない!!」 トヨタ、今春闘初の労使協議も…ベア巡り隔たり

 

 春闘相場の形成に強い影響力を持つトヨタ自動車は22日、平成29年春闘の第1回労使交渉を愛知県豊田市の本社で行った。ベースアップ(ベア)に相当する賃金改善分を月額3千円、年間一時金(ボーナス)を6・3カ月分とする労働組合側の要求に対し、経営側は「(賃金水準を)引き上げるべき要素は見当たらない」と難色を示し、労使の認識に大きな隔たりを残した。(今井裕治)

 労使協議の冒頭、トヨタ自動車労働組合の鶴岡光行執行委員長は「会社の競争力の源泉は人だ」と述べ、賃上げの必要性を訴えた。これに対しトヨタの豊田章男社長は「取り巻く経営環境はかつてないほど不透明だ」と強調し、慎重な姿勢を示した。

 トヨタグループの労組でつくる全トヨタ労働組合連合会の平野康祐副事務局長は交渉後、豊田市内で会見し「ベアと一時金をめぐり、労使間に大きな認識の隔たりがあった」と述べた。

 トヨタの経営側がベアに慎重な姿勢を示すのは、経営環境の変動要因が大きいと見ているからだ。トヨタの29年3月期連結決算は、円高に揺さぶられ減収減益予想となった。さらに自動運転など次世代技術をめぐる開発競争の激化で、投資負担は膨らむ一方だ。

 世界経済の先行きもトランプ米政権の発足で見通しにくくなっている。豊田社長は労使協議で「従来の延長線上で、今後起こりうることを想定することが難しくなっている」と述べた。

 とりわけトランプ大統領の通商政策は、トヨタの経営に打撃となりかねない。

 トランプ氏は北米自由貿易協定(NAFTA)の再交渉について、対メキシコを中心に見直しを進める考えを表明。再交渉がまとまらず、NAFTA離脱を決断すれば、メキシコを北米向け輸出車の生産拠点にするトヨタは戦略の練り直しを迫られる。さらにトランプ氏が「国境税」を導入し、米国への輸出車に高い税率を課した場合、トヨタが堅持する「国内生産300万台体制」への影響も避けられない。

 トヨタ経営側はこうしたリスクも踏まえ、今春闘ではベアより定期昇給に当たる賃金制度維持分で報いる姿勢を示す。3月15日の集中回答日に向け労使で激しい攻防が続くのは必至だ。