華がないのになぜ人気? 富裕層に選ばれる「京王電鉄」のスゴさ
《京王電鉄は、小田急電鉄のように「ロマンスカー」といった「象徴」のない路線だ。しかし、沿線には多くの人が暮らし、人気の高い路線となっている。一見、華のないように見える京王電鉄。そんな京王の強みは、どこにあるのか。そしてその強みから何を学べるのか、考えてみたい。[小林拓矢,ITmedia]》
京王電鉄は、特別料金を支払う必要のない列車ばかりである。近いうちに、有料での着席サービスが行われるという計画もあるが、東武東上線で見られるようなロングシート・クロスシート転換可能な座席や、小田急電鉄のロマンスカーのような質感の高いリクライニングシートなどがない。
京王八王子や京王多摩センター、橋本までの長距離旅客のために、ちょっとしたサービスを提供する程度のものになるであろう。もっとも、新宿から京王八王子は37.9キロ、橋本は38.1キロである。
現在は、ロングシートのみの通勤電車を使用した路線であり、それほどの個性があるように思えない。だが、京王はポテンシャルの高い路線なのだ。
富裕層の住む路線
京王電鉄の子会社、京王エージェンシーによる交通広告の案内『京王メディアガイド2016』によると、「活性化する街を結ぶ。感度の高い人を運ぶ。」とある。おそらくは新宿や渋谷といったターミナルだけではなく、井の頭線沿線の下北沢や吉祥寺、京王線沿線の明大前や仙川、調布、府中といった街のことを指し、そこで暮らしている人を「感度の高い人」と評価している。
そしてこのメディアガイドでは、「沿線エリアの特徴」として「高年収層や富裕層が多く、居住地域に満足しており、第三者にも住みやすい街として京王沿線を勧める住民が、数多く存在する人気の高いエリアです」と特徴をうたっている。
実際、それを裏付けるようなデータもある。ターミナルとなっている新宿や渋谷周辺では富裕層の読者が多い『日本経済新聞』がもっとも読まれており、住宅地の杉並区や世田谷区では大卒サラリーマン家庭の読者が多い『朝日新聞』が読まれている。特に井の頭線沿線は『朝日新聞』の読者が多く、この地域には大卒層の住民も多い。
京王線の調布市エリアより先になると『読売新聞』読者が多く、庶民的なエリアになっていく。
鉄道は平凡な印象を受けるが、利用者は他社に比べて、特徴があるのだ。しかし、それでいてそのスゴさを、強くはアピールしない。それが、京王線なのだ。
個性は「足」で発揮する
井の頭線の線路幅は1067ミリメートル、その他の路線は1372ミリメートル。井の頭線は戦前、「大東急」としてひとまとまりになる前は小田急グループだったので、線路幅が小田急と、そしてJRと一緒である。しかし、その他の路線は、かつての都電と一緒の線路幅である。もともとは京王は軌道で免許を取得し、都電との乗り入れも視野に入れていたので、この線路幅になった。しかし延伸し、事業が拡大していく中でも線路幅が変わることはなかった。
都営新宿線と相互乗り入れを行う際に、線路の幅を変えるという話もあったが、京王側の負担が莫大になることから、結局は都営新宿線が京王と同じ線路幅になった。
多くの人は、線路の幅なんてあまり気にしていないだろう。JRの在来線と新幹線の線路幅を意識している人も少なければ、京浜急行と東急の線路幅を気にしている人もめったにいないはず。
京王と同じ幅の線路(井の頭線を除く)を探してみると、近いところでは東急世田谷線くらいか。しかしこれは、路面電車のような、短い電車である。
京王が他線と違うのは、その「足」である。そんなところで個性を発揮しなくてもいいじゃないか、と思う人もいるかもしれない。しかし、この個性は利用者に受け入れられているのだ。
日常的なタスクはしっかりこなす
筆者は調布市に暮らし、京王線をよく利用する。調布駅を利用する際によく考えるのは、平日昼間ダイヤのたくみさである。おおよそ10分間に、特急・準特急2本、急行・区間急行・快速1本、普通1本がホームから発車している。しかも、特急・準特急とそれ以下の列車の乗り継ぎが考慮されている。ダイヤの密度の高さには感心させられる。
通勤時間になるともっと大変だ。2分に1本のペースで都心に向かって列車が出発する。これをさばくだけでも、大変だろう。この時間帯は、特急・準特急はない。
朝のノロノロ運転に不満を持っている京王線沿線住民は多いかもしれない。しかし、近く高架にする工事が行われ、その際に追い抜き可能な駅を増やし、列車をどんどんさばけるようにする予定だ。またそれにともなって、「開かずの踏切」問題も解消するだろう。
おそらく、京王沿線の住民の不満は「朝のノロノロ運転」「いつも混んでいる」の2つではないかと思われる。このあたりの改善にも、時間をかけながらしっかりと取り組んでいるのだ。
京王に学ぶ「個性と凡庸」
この国では、際立った個性を持っている、それがさんさんと輝いていることは、決していいことのように思われない。むしろ、みんなと一緒に、同じようなことをしていることが、まっとうな人間の証であるかのような風潮がある。
京王の列車たちは、5両編成の井の頭線の電車を除き、他から見るとみんな似たようなもの、と見えるだろう(実際にはいろいろあるのだけれども)。しかし、足元だけは京王の個性を発揮している。
平凡でありながら真面目に働いている。それでそれなりに評価されている。これは、この国で働くビジネスパーソンのひとつのあり方だ。もっとも最近はそれだけでは厳しい。だがその厳しさに対しても、なかなか見えない「足」というところで個性を発揮する。
少し回りくどい表現になってしまうが、京王電鉄の凡庸さに、ビジネスパーソンが学ぶべきことは多いのではないか。
■著者プロフィール:小林拓矢(こばやし・たくや)
1979年山梨県甲府市生まれ。早稲田大学卒。フリーライター。大学時代は鉄道研究会に在籍。鉄道・時事その他について執筆。単著『早大を出た僕が入った3つの企業は、すべてブラックでした』(講談社)、共著に首都圏鉄道路線研究会『沿線格差 首都圏鉄道路線の知られざる通信簿』(SB新書)、ニッポン鉄道旅行研究会『週末鉄道旅行』(宝島社新書)。
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