「英語を話せない」は“問題”か“機会”か

講師のホンネ

 「英語は何から始めたらいいですか?」とよく聞かれる。まずは文法、まずは単語-など、いろいろ方法はあるが、おすすめは、その問いの「英語」を「コミュニケーション」に置き換えてみることだ。すると、その人なりの答えが出てくる。

 先日、夫が犬の散歩に出かけたときのこと。散歩中に会った人が、犬を見て「かわいい。今日も寒いね」と犬に話しかけてくれた。「お名前は?」と聞かれたので「ロージーです」と夫が答えた。その方は、目線を犬から夫に移すと、夫が外国人だったので、驚いた様子で「あ、あ、あ…」と言葉を失って、その場を去っていった。

 外国人を目の前にして、緊張して何も話せずに、悔しい思いや寂しい思いをした経験がたくさんある。しかし、それは英語習得の上で欠かせない大切な時期だった。先日、20年前に海外を旅したときのビデオが出てきた。そこには、笑顔と身ぶり手ぶりで一生懸命コミュニケーションをとろうとしている自分が映っていた。

 英語が話せるようになった今、当時をふりかえると、話せなかったときの方が、相手のことを分かりたいという思いや、自分のことを伝えたいという一生懸命さが、今より強かったと感じる。英語が話せないことが、「問題(Problem)」ではなく、むしろ相手とつながるための「機会(Opportunity)」となった。

 英語が話せるようになりたいと思っていながら、まだ話せないのであれば、その状況を“問題”と捉えるか、“機会”とみるか、意識的に選択してみてほしい。コミュニケーションという観点から見ると、それは絶好の“機会”になり得るのだ。

 これから先、外国人と会ったり、一緒に仕事をしたりする機会も増えてくると思う。「言葉も通じないし話しかけられたら、どうしよう」と緊張することもあるだろう。そんな機会には「コミュニケーションは何から始めたらいいか?」と問うてみる。笑顔で目を合わせる、相手の表情に注目する、とりあえず日本語で話しかけてみるなど、目の前の人とコミュニケーションを始める方法はたくさんある。そうした人との関わりがあって初めて英語力は育まれていく。

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【プロフィル】鈴木マグラクレン美保

 すずき・まぐらくれん・みほ 1974年静岡県生まれ。ベター・ライフ・コーチング代表。「つながる」をキーワードに企業・大学・自治体などで、異文化コミュニケーション、ダイバーシティ、英語関連の研修講師を務める。TOEIC960点、全国・講師オーディション2014奨励賞受賞、米Gallup社ストレングスコーチングコース通訳(2014、15)。