ヤマト運輸が宅配運賃の全面値上げを決めたことは、宅配便のビジネスモデルが限界に達している実情を浮き彫りにした。インターネット通信販売の拡大による荷物個数や再配達の増加は、現場の労働環境悪化だけでなく企業業績にも影を落とす。値上げは不可避の情勢で、急成長してきたネット通販市場に冷や水を浴びせる格好だ。
扱い増えても利益減
「配送の合間には休憩がほとんどとれず、昼食はトラックの中でチョコレートを口にする程度」。ヤマトでドライバーをしていた元従業員の男性は、疲弊する現場の実態をもらす。
ヤマトは2013年に通販大手アマゾンの配送を請け負うようになってから「体感で荷物が2~3割は増えた」(元ドライバー)という。昨年4月~今年2月における宅配便の取扱個数は前年同期比8%増の約17億1226万個。16年度全体では約18億7000万個と過去最高を更新する見通しだ。配送全体の2割を占める再配達の増加も、ドライバーの負担に追い打ちをかけている。指定された時間に配送しても受取人が不在というケースも少なくない。
一方、取扱個数の増加が利益にはつながっていない。ネット通販事業者が時間帯指定や当日配送といったサービスを拡充すればするほど、配送効率が下がって宅配事業者の利益を圧迫するからだ。石井啓一国土交通相も「深夜に頼めば翌日届くようなサービスもあり、物流業者に相当の負担がかかっている」と指摘する。