GM狙うフィアット総帥 トランプ政権巻き込む? 再編次章のキーマン
米ゼネラル・モーターズ(GM)が独オペルを仏プジョー・シトロエン・グループ(PSA)に売却し、世界的な再編機運が高まる中、動向が注目される人物がいる。フィアット・クライスラー・オートモービルズ(FCA)を率いるセルジオ・マルキオンネ最高経営責任者(CEO)だ。一度は合併構想を袖にされたGMに再び秋波を送り、「トランプ大統領も支持する」と新政権まで巻き込んだ。型破りな言動で周囲をはらはらさせる業界の風雲児から目が離せない。
「私はドアを閉じない」
3月7日、国際自動車ショーが開かれていたジュネーブ。GMとPSAの交渉を受け、反応を探ろうとした記者団に、マルキオンネ氏がほえた。ロイター通信などによると、マルキオンネ氏は、FCAのビジネスにプラスになるなら、「GMのドアを再びたたくかもしれない。合併相手としてGMが望ましいことに変わりはない」と強調した。
マルキオンネ氏は2年前にGMに合併を打診している。だが、経営破綻から再建にこぎ着けたGMのメアリー・バーラCEOは「われわれは(すでに)スケール(規模)をもっている」と提案を拒んだ。
だが、このぐらいでめげるマルキオンネ氏ではない。今年1月の米デトロイトでの自動車ショーでも、「自分の職業人生で、もう一つ大型のディール(取引)をする公算がある」と周囲に宣言。さらに、「私が理解するところでは、トランプ氏はGMとクライスラーの提携を好むだろうと確信する」とまで踏み込んだのだ。
発言の余波が広がり、マルキオンネ氏は一転して、今はいかなる合併も求めておらず、トランプ氏と直接接触したこともないとトーンダウンした。だが、業界では「GMとのM&Aに未練たらたらなのでは」(日本の自動車大手関係者)との受け止め方が多い。
マルキオンネ氏といえば業界でも極めつけの「再編論者」で通る。これまでもたびたび、自動車業界がよりクリーンで安全な自動車への需要に対応する巨額投資を維持していくため、「世界の自動車メーカーの数を減らす必要がある」と主張してきた。
面目躍如たるものが、14年に完全子会社化した米ビッグ3の一角を占めるクライスラーの買収だ。08年から米国を襲った金融危機でGMに続いてクライスラーも破綻。そこにイタリアから米国進出の野望を長年抱いてきたマルキオンネ氏が救いの手をさしのべ、大西洋を股に掛けた自動車グループを作り上げた。
だが、これで満足するマルキオンネ氏ではない。16年の新車販売台数で世界首位となった独フォルクスワーゲン(VW)、トヨタ自動車など先頭集団の背中はまだ遠い。その差を詰めるには、M&Aが大きな武器となる。米ビッグ3の頂点に立つGMと世界7位のFCAが組めば、業界の構図は塗り変わる。トヨタやVWも青ざめるビッグプレーヤーが誕生する。
FCAはトランプ政権への傾斜も深めている。ミシガン州など米国内の工場へ10億ドルを投じ、2000人を雇用すると発表。メーカーに米国への投資を呼びかけるトランプ氏から称賛された。
GMのPSAへのオペル売却についても、GMが欧州事業から事実上撤退することで、FCAとの欧州でのビジネスの重複がなくなり提携が進めやすくなるとの見方もできる。
経営者としてもマルキオンネ氏は個性的で、「業界の異端児」と呼ばれてきた。イタリアとカナダの国籍を持ち、ファッションも独特。スーツはめったに着用せずセーターをさらりと着こなす。片時もたばこを離さないチェーンスモーカーとしても有名だ。各国の自動車ショーでマルキオンネ氏が登場すると、たちまち人だかりができ、「まるでロックスター」(業界関係者)ばりの人気者。もちろん社内での存在感は圧倒的で、英紙フィナンシャル・タイムズは「側近を従えた独裁者のようにフィアットとクライスラーを経営している」と評する。
ただ、こうしたあくの強さが業界では警戒もされる原因になっている。GMがつれないのも、バーラ氏を含む経営陣がマルキオンネ氏に主導権を握られて振り回されることを嫌っている、との見方は多い。GMのアマン会長は米メディアなどに「FCAとの経営統合に以前も関心はなく、さらに薄れている」と冷ややかに語った。
米国民のビッグ3への愛着も深い。欧州でバッティングする事業がなくなっても、FCAがクライスラーに続きGMまで飲み込むとなれば、「寡占の問題からも米当局は黙っていない」(業界関係者)だろう。
それほどマルキオンネ氏の野望実現のハードルは高そうだが、自動車業界で合従連衡によるサバイバルが激しさを増す中、FCAとしても指をくわえてばかりもいられない焦りもある。
マルキオンネ氏は「プランB」として、GM以外の複数の大手自動車メーカーとの合併も模索しているとも報じられてきた。VWが候補に挙がっているほか、ホンダやマツダ、スズキなどの日本車メーカーや韓国の現代自動車に打診する可能性もあるという。
業界大再編の次章こそ俺の出番だ-。内心そう思い、マルキオンネ氏は牙を研いでいるのかもしれない。(SankeiBiz 柿内公輔)
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