東芝半導体事業 主力工場関係者に募る不安 地元に雇用と操業確約

 
三重県四日市市の東芝四日市工場

 東芝は1日、半導体事業を受け継いだ新会社「東芝メモリ」(東京)を発足。米原発子会社の巨額損失を穴埋めする資金確保に向けて株式売却先の選定を本格化させるが、主力工場がある三重県四日市市の関係者が不安を募らせている。事業の主導権が海外企業などに渡れば、地元の雇用や財政が不安定になる懸念があるためだ。東芝は雇用や操業の維持を確約し、動揺を抑えようとしている。

 ブランド

 「市内中心部から工場まで片道3000円くらい。いいお客さんになるから、出張者の多い朝は奪い合いだ」。東芝関係者をよく乗せるというタクシー運転手の男性(60)は話す。工場に向かうタクシーは午後になっても途切れることはない。

 JRや近鉄の四日市駅から20分ほどの丘の上に工場がある。完成は1992年で、敷地面積は東京ドーム約9個分の約44ヘクタール。新たな製造施設の建設がこのほど始まり、重機の稼働が本格化している。

 工場ではスマートフォンなどの記憶媒体に使われる半導体「フラッシュメモリー」を製造する。スマホの世界的な普及が追い風だ。東芝が公開する動画では従業員とみられる男性が「四日市工場のメモリーを世界中が必要としている」と誇らしげに語る。

 ただ実際に働いている従業員には不安もある。外部の企業が経営権を握れば、人員整理や東芝ブランドの消滅といった事態も将来はあるかもしれない。40代の男性は「長く働きたいけど、この先どうなるのか。(売却で)東芝の工場ではなくなるかもしれないとも聞くが、詳しい話は分からない」と言う。

 屋台骨

 東芝が半導体事業を分社化し株式の過半数の売却を含め外部資本を導入すると発表した2月下旬。四日市市の森智広市長は自身のブログに「最大限の支援を行っていく」と書いた。工場の幹部が「操業と雇用は堅持する」と約束したという。

 四日市市の人口は三重県で最も多い約31万人。伊勢湾に面した沿岸部に石油コンビナートを抱え、内陸部にも多くの企業が製造拠点を構える。

 中でも東芝は地元経済を支える屋台骨を担う。工場の従業員は市内の企業では最大の5800人(2016年3月末)。県内では約6000人が働くホンダの鈴鹿製作所(鈴鹿市)に次ぐ。

 四日市市の税収には東芝関連が多い。17年度の当初予算は固定資産税が320億円と前年度から約20億円増える見込み。東芝の工場拡張が貢献しているという。

 雇用と税収で地元経済への影響が大きいだけに、事業売却後の工場運営には関心が集まる。市商工課の森幸康課長は「東芝とは信頼関係を築いてきた。売却後も投資計画などを維持してほしい」と願いを込める。

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【用語解説】東芝の半導体事業

 原発と並ぶ東芝の主力事業で、東芝の利益の大半を稼ぐ。中でも三重県四日市市の工場で生産する記憶媒体「フラッシュメモリー」は、サムスン電子に次ぐ世界2位の市場占有率を持ち、事業価値は2兆円規模とされる。東芝は米原発の損失穴埋めのためフラッシュメモリーを分社化して株式の過半を売却する方針だが、売却先の企業に対して従業員の雇用維持や、2018年以降の事業の投資を求める。