獣医学部設置は理念に沿うか 散見する流行におもねった学部新設

高論卓説

 岡山理科大(学校法人加計学園)の獣医学部設置問題は、結論を10月まで先送り。認可の判断を保留したらしい。文部科学省の大学設置審議会の審査は、教員数とその資質と実績、入学定員、カリキュラム、学生確保の可能性、学費、施設、財務状況、社会動向など、設置基準にのっとって細部にわたる資料を提出して厳しく行われる。日体大も新学部設置のおり、認可まで幾度も指導を受けてきた。先送りというより、慎重に再審査している感じがする。珍しいことではなく、むしろ一般的だ。

 文科省は、医学部と獣医学部の新設をかたくなに認めず、卒業生のレベル低下を防ぎ、必要性が社会変化で生じた場合、既存の大学の定員増で対応してきた。2017年度に国際医療福祉大が、医学部を千葉県成田市に新設認可されたのは、国際空港対策の特殊事情があったためだ。四国には獣医学部が存在していない。鳥獣病対策や先端ライフサイエンス研究の獣医学部は不必要なのだろうか。特区制度は、地方再生のために生かされるべきではないのか。

 設置審のハードルは決して低くはない。もちろん、政治力やいかなる圧力も影響せず、厳正である。私は日体大理事長に就任して4学部を新たに設置したが、申請後、落ち着く余裕の日などなく、心配ばかりした。

 担当教員を採用し、多額の費用をかけて新校舎を建設しているのだから、不認可となれば経営責任が問われる。だが、少子高齢化社会を読み、社会動向を先取りして新学部の設置に走らねば大学の存亡にもかかわる。

 イメージを高めるかに映る薬学部を持つ大学が増えたため、3割の大学は定員割れを起こしている。看護学部、学科の新設ラッシュが続くが、まだまだ看護師不足だという。日体大は保健体育教員免許の取得を売りにしてきたが、今では160以上の大学が同免許を出す。

 かつて歯学部ブームが見られたが、定員割れの大学が続出した。新学部設置には流行があり、観光ブームになると観光学部、高齢化が進むと保健医療学部が林立する。大学の学問領域は社会変化と密接に関係する。

 大学の学部名称は、設置基準の大綱化によって多様化し、現在では700以上の学部名があり、学士の学位名も雑多である。学際的な学部が、就職環境やキャリア形成に加え、女子の進学者増加にともなって新設傾向にある。資格・免許取得が就職に影響するゆえ、それらの学部も急激に新設ラッシュが続いた。リハビリテーション学、栄養・食物学、保育・児童学などの学部の申請も後を絶たない。

 受験生は、景気状況にも左右される。サラリーマン希望者は社会科学系に流れ、社会の動きに敏感な者は、保健医療系、スポーツ科学・健康系へと流れる。国際社会や技術革新、農業・食品、情報関係など新時代の課題に興味を持つ若者も増えている。そのための学部の設置は年中行事化している。

 日体大は、「身体にまつわる文化と科学の総合大学」であるがため、大学の建学の精神、理念、ビジョン、社会的役割と離れた学部を設置する考えはない。トレンドに乗るために、残念ながら理念を無視した学部を新設する大学も散見する。岡山理科大にとって、獣医学部設置は理念に沿った行動であったかどうかの議論を耳にしないのは、なぜだろうか。

                  ◇

【プロフィル】松浪健四郎

 まつなみ・けんしろう 日体大理事長。日体大を経て東ミシガン大留学。日大院博士課程単位取得。学生時代はレスリング選手として全日本学生、全米選手権などのタイトルを獲得。アフガニスタン国立カブール大講師。専大教授から衆院議員3期。外務政務官、文部科学副大臣を歴任。2011年から現職。韓国龍仁大名誉博士。70歳。大阪府出身。