ここまできたVR活用 「無意識」読み取り購買意欲刺激 CM制作などに期待

 
VROAT。リラックス、集中の度合いなどが数値化され、表示される=東京都品川区(高原大観撮影)

 仮想現実(VR)を利用したマーケティング調査などが盛んな中、VR体験と生体反応を組み合わせることで、人間の意思決定や行動を左右する「無意識」を究明する試みが進められている。7月下旬には測定システムのプロトタイプが発表され、視聴者の購買意欲をより刺激するCM制作などへの活用が期待されている。

 「VRインサイト(無意識)」と呼ばれるサービスを開発したのは、大手CM制作会社の「AOI Pro.」(東京都品川区)などのグループ。同社は今年3月、女性に手を引かれて旅行体験ができるVR作品「WONDERFUL WORLD-VR Private Tour」を発表し、話題となった。

 同社は旅行体験VRを通じて、脳波や心拍数と人の心の動きの関係に着目。今回発表された「VRインサイト」のプロトタイプ「VR ON AIR TEST」では、「見かけは現実ではないが、効果としてあるいは実質的には現実」と定義されるVRの特性を生かし、高精度のシュミレーターとして利用しているのが特徴だ。

 生体反応のマーケティングへの利用はすでに行われているが、同社によると「通常のディスプレイと据え置きカメラを組み合わせる場合より高精度に人の視線の動きを分析できる」「VR空間での没入状態では、脳波など人の手が介在しないデータを取得する際に外部からの刺激の影響を受けにくい」という。

 7月下旬に都内で行われた発表会ではCMを使い、報道陣にその機能が紹介された。被験者は脳波を検出するヘッドギアと一体になった専用ゴーグルと脈拍を測るリストバンドを装着。ヘッドギアで周囲の音を遮断し、画面の音と映像に意識を集中させる仕組みになっている。

 教室の黒板の前にたたずむ転校生がふりかえると…。実はゾンビだった転校生の襲撃にクラスメートが叫びながら逃げ惑う。最後には「ストップ!ゾンビ醤油」の文字。「新鮮な食材には新鮮な醤油を」というナレーションが流れて、約2分の映像が終わった。

 長く捨てられず使われ続けている醤油を「ゾンビ醤油」とし、それによって料理が台無しになってしまう様子を表現したという。

 この映像を被験者に見せて、商品のロゴを見ているのか、出演女優の顔を見ているのかなど視線の動きを追跡。脳波や心拍数などと組み合わせ「リラックス度」「集中度」などを数値化する。

 同社の体験設計部プロデューサーの平岡淳也氏は「このサービスを利用することで例えば消費者に好まれる商品のデザインや色などを調査することもできます。実際に試作品を作らなくても映像で商品の色やデザインなどをすぐに変えることもでき、コスト削減になります」と話している。(産経新聞WEB編集チーム 高原大観)

 ■VR バーチャルリアリティーの略で、仮想現実などと訳される。目の前に実際には存在しないものをコンピューターが作り出した臨場感ある映像を駆使して視るものの五感に訴えかける。