東芝半導体、遠いサムスンの背中 生産態勢の立て直し急務

 
東芝メモリ売却のメドがついた東芝だが、態勢の立て直しに向けた課題は多い=東京都港区(原田史郎撮影)

 東芝の半導体子会社「東芝メモリ」は約7カ月に及ぶ迷走の末、ようやく日本側の主導で再出発するメドがついた。だが、この間にも韓国サムスン電子をはじめとする競合他社は着々と事業拡大の布石を打っている。三重県の四日市工場を共同運営し、売却差し止めを求める米ウエスタンデジタル(WD)との関係修復を含め、態勢の立て直しは急務だ。

 韓国半導体大手のSKハイニックスが参画する「日米韓連合」への売却が決まったことで、東芝メモリは今後、SKとの関係を深めることになりそうだ。

 かつて東芝が技術を不正取得したSKを訴え、約330億円の和解金を受け取るという問題はあったが、現在の関係は比較的良好とされ、次世代メモリー「MRAM」などを共同開発している。

 主力製品であるフラッシュメモリーの世界シェアは東芝が2位で19%、SKが5位で10%。合計すれば、首位のサムスン(35%)にかなり近づく。

 もともとHDD(ハードディスク駆動装置)メーカーで、米サンディスクを2016年に買収したWDとは違い、SKは「半導体ビジネスを理解している」(東芝幹部)との安心感もある。

 東芝メモリは最先端品の「64層3次元メモリー」をサムスンとほぼ同時に量産開始した。もっとも、サムスンは生産規模や良品率を示す歩留まりで上回るとされる上、7月には新工場建設や既存工場の強化で2兆円を投じることを決め、2位以下を引き離しにかかっている。

 これに対し、東芝メモリは四日市工場で第6製造棟を平成30年夏に稼働させるほか、32年ごろには岩手県北上市で新工場を稼働させる計画。ただ、29~31年度の投資額は9千億円超で見劣りは否めない。売却先選定の長期化やWDとの対立が影響し、新工場まで全て単独で投資するかを含め、詳細を詰めきれていない。

 東芝メモリとしては、シェア3位のWDとの協業関係も維持して「3社連合」を目指すのが現実的だ。そうなればシェアは45%とサムスンを上回る。だが、日米韓連合への売却がWDの反発を招くのは確実。対抗軸の形成は簡単ではない。

 データセンターなどに欠かせないフラッシュメモリーは極度の品薄状態。好調な市況が続く今後数年の対応で命運が分かれそうだ。(井田通人)

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