新型ボルボXC90を試乗した。シートベルトの金具に、意味深な数字を発見した。「SINCE 1959」-。なにかの起源をあらわす数字なのだろう。
3点式シートベルトを開発
それが意味するのは、ボルボが世界で初めて3点式シートベルトを開発した年であるという。今からはるか60年も前、まだ世界の多くが、おざなりの2点式シートベルトでお茶を濁していた時代にボルボは、3点式のシートベルトを開発していたのだ。この数字は、ボルボの誇りである。
1959年の日本では、シートベルト装着義務違反の法規もなかった。まだ行政すら、安全意識が薄かったそんな時代に、ボルボは誰よりも早く乗員の衝突安全性に着目。新開発3点式シートベルトをモデル「PV544」に採用したのである。
世界で初めて「後ろ向きチャイルドシート」を開発したのもボルボだった。1972年のことだ。大気圏外に飛び立つ宇宙飛行士が、ロケットの打ち上げの際に、背を下にして着座していた。その原理を応用し、身体にかかる負荷を分散させるために、幼児を後ろ向きに座らせることを思いついた。ボルボの柔軟な発想と、革新的技術を思わせる。
「側面衝撃吸収システム」をボルボが開発するのも早かった。いまでいうエアバックの効果を求めた。衝撃を感知して膨らむという現代のシステムとは異なり、衝撃吸収材をシートサイドにくくりつけただけ。枕のようなクッションをシートサイドに装着した。それほどの効果は期待できないかも知れないが、当時としては画期的だった。それが1991年。そして3年後の1994年には、世界で初めてサイドエアバックを開発している。
1998年には、追突された時にフロントシートがリクライ二ングすることにより衝撃を吸収する「後部衝撃吸収リクライニング機構付きフロントシート」を開発。サイドエアバックの発展形である「頭部側面衝撃吸収エアバック」。つまりインフレータブル・カーテンをも開発している。
といったように、ボルボは世界に先駆けて、衝突による乗員の衝撃低減に技術を注いだメーカーなのである。
死亡・重傷者ゼロ宣言
もちろん、受動的なパッシブセーフティだけでなく、加害者にならないためのアクティブセーフティに関しても手抜かりはない。
ボルボは、2020年までに、新型ボルボに関わる事故による死亡・重傷者をゼロにすると宣言した。「安全のボルボ」を貫くための力強いメッセージである。
まずは「180km/hの速度制限」を導入するという。最高速度を抑えるというのだ。
世界には速度無制限の道路がまだ残る。有名なところでは、ドイツのアウトバーンがそれだ。条件さえ許せば、いくら高速で走行してもだれにも咎められない。250km/hオーバーでスポーツカーが迫ってくることもある。ミニバンや小排気量コンパクトモデルさえも、アクセル全開で追いすがることも珍しくはない。欧州にはまだそんなアウトバーンが残るのに、180km/hリミッターを採用するところにボルボの良心が見え隠れする。金で時間を買うユーザーにとって、ボルボは購入対象にならないかもしれない。それを覚悟で自主規制を採用するところは「ボルボ=安全」であろうとする心意気が透けて見える。
その象徴がシートベルトのバックルの文字に現れている。
「SINCE 1959」
この四桁の数字は、ボルボの誇りなのだ。
【クルマ三昧】はレーシングドライバーで自動車評論家の木下隆之さんが、最新のクルマ情報からモータースポーツまでクルマと社会を幅広く考察し、紹介する連載コラムです。更新は原則隔週金曜日。アーカイブはこちら。木下さんがSankeiBizで好評連載中のコラム【試乗スケッチ】はこちらからどうぞ。