「高齢者使用を意識して最高速度50キロに設定した場合、大渋滞の原因になる」(メーカー幹部)、「小さいため、大型車から見えにくく、事故に巻き込まれる可能性が高い」(軽自動車開発担当)など解決しなければならない問題は多い。道交法をめぐっては、自転車の通行区分で大議論が起きている真っ最中で、超小型車の走る場所や車線などの問題は棚上げになっている。
羽田国交相も「普及の鍵は、既存のクルマとの共生をどのようにするか」と発言するなど、障壁の存在を認めている。
新興国攻略が先決、TPPでも米刺激必至
メーカー各社は、超小型車の利用シーンが明確にならないため、市場規模を想定できず、事業採算のめどが立たない。
ある開発者は声を潜める。「自分の親のためにいくらなら買いますか。70万円だったら、軽自動車でいいでしょう。40万円を切らなければ売れないし、それを実現するには、年間数十万台の生産規模が必要だ」
現在、自動車業界の最大の経営課題は、新興国市場の攻略だ。新興国で売れるクルマの開発に資金や人材を注ぎ込まなければならず、超小型車開発に経営資源を回す余裕はない。
外交問題への発展懸念もある。日米の環太平洋戦略的経済連携協定(TPP)交渉の中で、米自動車業界は日本の軽自動車規格が参入障壁になっていると主張する。そんな中で、官主導で新たな小型車の規格を設定すると、「相手(米側)を刺激する」(軽自動車メーカー)ことは間違いない。
「夢のクルマ」の本格デビューには、まだ紆余(うよ)曲折がありそうだ。(平尾孝、西川博明)