5月に発表されたイタリア自動車大手フィアットとの提携協議は、業界関係者の多くを驚かせた。27年から本社工場(広島県府中町)で生産する2人乗りの小型スポーツカー「ロードスター」の次期モデルを、フィアット傘下の「アルファロメオ」にOEM(相手先ブランドによる生産)供給するという内容だったからだ。
間違った「選択と集中」
数少ないヒット車の1つであるミニバン「プレマシー」を、日産自動車にOEM(相手先ブランドによる生産)供給するなど、マツダは主力車種、基幹技術をライバルに供給することに抵抗を感じないところが少なからずある。だが、ユーザーが極めて限定されるオープンスポーツカーとはいえ、「ロードスター」は欧州におけるマツダの代名詞。しかも、新型車にはスカイアクティブの搭載を予定しているのだ。
マツダの狙いは、開発投資などの分担だ。だが、フィアットはこのモデルを北米にも投入し、「国際ブランドに育てたい」(マルキオンネ最高経営責任者)考えで、フィアットとの提携戦略が逆にマツダの存在感を失わせる結果にもなりかねない。
マツダと同様、海外生産拠点に乏しく、輸出比率が80%弱に達する富士重工業は、24年3月期で円高で大幅減益になりながらも384億円の最終利益を確保。世界販売台数も過去最高を記録した。主力の米国市場をターゲットに車種に絞り込んだことが奏功した。
これに対して、マツダは自動車用エンジンとしては実用化が極めて難しくなったロータリーエンジンを電気自動車(EV)の発電用エンジンとして、研究開発を継続。今月16日には業績が回復していないにもかかわらず、かつて優勝したルマン24時間耐久レースに来年からエンジン供給で参戦することも表明した。
「選択と集中の仕方を間違えている」。アナリストの間には、こんな辛辣(しんらつ)な見方も出始めている。(平尾孝)