1枚の金属板を「へら」と呼ばれる1本の棒を使って、へらに体重を微妙にかけながら、形作る職人技術「へら絞り」。このへら絞りの技術や技能では世界トップクラスにあるのが北嶋絞製作所。その精度は0.03ミリと機械では出せないレベル。国産ロケットの先端部分や半導体製造装置など、寸分の誤差を許さない分野を陰で支えている。
--へら絞りで作られるものは何か
「パラボラアンテナや大型針時計の外枠、原子炉の配管など。特に原子炉の配管は、溶接だと配管に亀裂が入ると放射能漏れの危険もあり、どうしてもへら絞りでやらざるをえない」
--体重をかけるというと、かなりの肉体労働のようにもみえる
「毎日仕事をやるにつれて、筋力や腰が鍛えられる。特別なトレーニングはしていない」
--一人前になるまでにはどのくらいかかるか
「図面を渡されて、親方が心配もせずに、一人でできるようになるまでには10年ほどかかる。このぐらいの力を入れてと話しても、人によって受け取り方が違うので、結局は見よう見まね、実践で覚えていくしかない」
--かつて中国の工業見本市に出展したことがある
「2011年5月、大連の見本市に出展した。当時は未曽有の円高で、国内で食べていくには難しいと考え、海外に活路を求めた。だが商談会に参加してわかったのですが、中国では価格志向が強く、へら絞りの技術が活躍できる場ではないと思った」
--どういうこと?
「へら絞りは人の手を介した技術。大きなパラボラアンテナのへら絞りには4~5人がかりで取り組むなど、労働集約型の技術。それを日本でやるのでどうしても高コストになる。その結果、日本国内で勝負していくしかない」